2012-5-10 橋本秀幸 インタビュー 4/4

  • このアルバムは今までのまとめ

――アルバムタイトルの『earth』については、何か思いがあるんでしょうか

「『earth』っていうのは、壮大なイメージというよりは、すごく身近なイメージですね。(足元を指差す)」

――ああー

「曲も割と日常で感じることから出来たり。例えば『naoshima』だったら直島に行ってできた曲だったり」

――身近に感じたことが曲になるんですね

「『naoshima』を作ったときに、音楽は土地から生まれるのかなって思いました。直島ではパオという、テントみたいなところに一人で泊まったんですが、海辺で波の音を聴きながら、例えばここにはジャズは合わないなと思って。都会っぽいJ-POPとかもここには合わない気がして。音楽は土地から生まれるものなのかなって思いました」

――音楽は土地から生まれる。いい言葉ですね

「即興はそれこそ、その空間から生まれる感じですね」

――このアルバムは全体を通じて、独特の肌触りというか心地よさがありますね

「エンジニアさんは質感を大事にしてる人なんですけど、そういえば自分も同じかなって思ったんです。テイクを選ぶときの基準が、自分もそういうような気がしてきて。質感とかタッチ感とか」

――タッチ感というのは、弾くときにもかなり意識してるんですか?

「いや、そこまで意識してなかったつもりでしたけど、レコーディングをしてテイクを選ぶときに、自分が選ぶ基準が、結構そこな気がして。実は自分はそういうところを大事にしてるのかなって思ったんです」

――その質感やタッチ感を含めた空気全体が、独特の世界を作ってるんでしょうね

「みんなが好きになるわけじゃないんで、なるべくいろんな人に聴いてもらって、その中でピンとくる人に買ってもらえたらいいなぁって。できたら間違って買ってほしくないんですよ(笑)」

――はははは

「買ったけど『私、あんまりこれ好きじゃないわ』って言われるんだったら、すみませんって感じなので(笑)。だから正しく伝えるために、試聴もできるようにしています」

――このアルバムは、今までのまとめだとブログに書いておられましたが

「人生の……いつ死んでもいいように。今までの音楽活動のまとめや区切りという思いはありました」

――でも、これまでは自分でソロをやるというよりも、他の人の曲にサポートで入ることとかが多かったんですよね?

「そうですね」

――そうすると、今までの音楽活動のまとめって言っても、聴く人によっては突然ぱっと出てきたような感じじゃないですか?「あ、実はこういう感じの人だったんだ!」みたいな

「ああー、思われるんでしょうね」

――だけどそれは、自分の中にはずっと自然に存在していた音だったんですね。橋本さんの音楽を聴いていると、音楽だけというよりも、その音楽を含めた空間全体を意識しているような気がするんですが

「そうですね。『音楽ハイどうぞ!』みたいなのじゃなくて、音楽と場所とか、音楽を聴いてその人が感じることとか、音楽と何かが合わさったりとか、音楽で100%じゃないイメージです。余白がある感じですかね」

――それは曲を聴いてると感じます。そしてそんな音楽を求めてる人には、まさにピッタリのアルバムだと思います

「歌詞がないピアノ曲なんで、海外でも聴いてもらえたらいいなぁって思ってます」

――現在はまだホームページでの先行発売のみですが、すでに海外からの反響もあるみたいですね。これから橋本さんの音楽が、まさに『earth』に相応しく広がっていくことを楽しみにしています。今日はありがとうございました (了)

橋本秀幸

1986年、大阪生まれのピアニスト、作曲家。空間を活かした即興演奏と、作曲作品を軸に音楽活動を行う。自然と奏でられるシンプルな美しい響きで、様々な楽器や声との共演のほか、 ヨーロッパでも映像とのコラボレーションを行うなど多彩な広がりを見せている。ソロピアノ2部作として『earth』を2012年6月にリリース、同年冬に『air』をリリース予定。

http://hideyukihashimoto.com/

2012-5-10 橋本秀幸 インタビュー 3/4

  • 一番しっくりくるものを自然体で

――このアルバムには、全体にストーリー性を持たせてあると聞いたんですけど、どんなストーリーとかはあるんですか?

「それはあまり重要じゃないんです。曲の流れとしてストーリーになってる、みたいな感じなんですけど。朝が来て、昼になるみたいな」

――ああ、そういうゆるい感じなんですね。グラデーション的に何となく色が変わってくみたいな

「そうですね。聴いた人がストーリーを考えたりしてくれるので、それでいいかなと。意図して何かを狙ったとか、そういうものもあまりないです」

――特にはっきりした物語があるわけじゃないんですね

「聴いた人が、色々な感想をくれるので、本当に自由に感じていただけたらいいなと。僕はただその時に一番しっくりくる音を弾いて、それが録音されているという、すごく自然体な感じですね」

――なるほど。曲のタイトルにもあまり意味を持たせてない感じがするんですが、それは意識してるんですか?音そのものを聴いて欲しいというか

「大体は曲のイメージから浮かんだタイトルを付けています。それもだから、しっくりくるタイトルをつけたってことでしょうか」

――これもまた何かを狙ったわけじゃなく、しっくりくるものが自然体で収まってるっていうことですね

「曲順だけは、すごく練りましたけど」

――曲順は最初に決めてあったんじゃないんですか?

「あったんですけど、変えました」

――出来上がってきた音を聴いて、違うなって?

「音を聴いて、しっくりこず(笑)」

――それこそ、しっくりこなかったわけですね(笑)

「曲順を決めるのは1ヶ月近くかかりました」

「このアルバムは今までのまとめ」につづく>

橋本秀幸

1986年、大阪生まれのピアニスト、作曲家。空間を活かした即興演奏と、作曲作品を軸に音楽活動を行う。自然と奏でられるシンプルな美しい響きで、様々な楽器や声との共演のほか、 ヨーロッパでも映像とのコラボレーションを行うなど多彩な広がりを見せている。ソロピアノ2部作として『earth』を2012年6月にリリース、同年冬に『air』をリリース予定。

http://hideyukihashimoto.com/

2012-5-10 橋本秀幸 インタビュー 2/4

  • 今の音楽を弾くようになるまで

――ここから少し、橋本さんの音楽体験をお聞きしたいんですが、ピアノは小さいときから習ってたんですか?

「僕はエレクトーンから入ってるんです」

――そうなんですね。でも当時は今みたいな音楽をやってたわけじゃないですよね?

「その時はまだそんな感じじゃないです」

――ここにたどり着くまでには色々なストーリーがある?

「ある……かもしれない(笑)」

――あはは。個人的には、こういう音楽を弾く人の入り口にすごく興味があるんです。クラシックでもないしジャズでもないし、どのタイミングでどういうところから入っていくのかなって

「ああー。一番自分が素直に自然に弾けるというか、一番素直に自然に弾こうとしたら、こうなると思うんで。色んなジャンルをやってきたけど、ここに戻ってきたというか」

――エレクトーンはずっとやってたんですか?

「高校3年ぐらいまでは、頭の中がエレクトーンでした(笑)。だから普通のバンドの曲とか聴いても、エレクトーンだったらどういう風に弾くんだろう、みたいな感じだったと思うんです。高校を卒業した後に、甲陽音楽学院(2年制の音楽専門学校)に入るんですけど、甲陽に入ったときも、多分エレクトーンでやっていくと思ってました」

――甲陽にはピアノで入ったんですよね

「入ったのはジャズピアノなんですけど、エレクトーンで入れる学校の見学とかにも行ってて、迷ってたんです。けど、エレクトーンの世界ってすごく狭く感じたので、エレクトーンをやるにしても、もっと広い世界を知った上でやりたいなと思って。ジャズピアノ科にしたのも、別にジャズをそんなに聴いてたわけでもないんですけど、ジャズピアノ理論ってすごく高度なイメージがあったんですよ。だからジャズピアノをやっておけば、大体色々対応できるかなと(笑)。それでジャズピアノ科にしました」

――甲陽で勉強するのは、いわゆるオーソドックスなジャズですよね

「今みたいな音楽に近づいて即興とかするようになるのは、確か2年生ぐらいからですね。当時の個人レッスンの先生にはすごく影響は受けました」

――どんなレッスンだったんですか?

「『本当に感じた音だけを弾きなさい。全然感じてない音をばーっと弾くより、弾きたいっていう音が出るまで待ってもいいから、そんな音だけを弾きましょう』って。で、実際そういう風にやって、『あ、それでいいんだ』みたいな」

――なるほどねぇ

「それで自分を受け入れてもらった気がします。あとは聴きに行くライブや、同期のミュージシャンからも影響を受けて、その辺からちょっと今に近づいてきた感じです」

――ジャズ的なスイング感とかが外れて、本当に今回のアルバムのような音楽をやるようになったのは、卒業してからさらに突きつめていった感じですか?

「例えば『klock』や『elephant walk』は、今でもバンドだと普通のスイングの感じでやったりします」

――あ、そうなんですね

「他の曲だと弦楽器が合いそうだとかあるんですが、でも今回はあえてシンプルな形で提示しようと思って、思い切って全部ピアノソロにしたので、それが独特の世界観を作っているのかもしれません」

「一番しっくりくるものを自然体で」につづく>

橋本秀幸

1986年、大阪生まれのピアニスト、作曲家。空間を活かした即興演奏と、作曲作品を軸に音楽活動を行う。自然と奏でられるシンプルな美しい響きで、様々な楽器や声との共演のほか、 ヨーロッパでも映像とのコラボレーションを行うなど多彩な広がりを見せている。ソロピアノ2部作として『earth』を2012年6月にリリース、同年冬に『air』をリリース予定。

http://hideyukihashimoto.com/

2012-5-10 橋本秀幸 インタビュー 1/4

今回のインタビューは、2012年6月20日に1stソロアルバム「earth」をリリースされる、若手ピアニストの橋本秀幸さんをお迎えしました。アンビエント・ミュージックというジャンルをご存知でしょうか?環境音楽と訳されることもあり、一般的にははっきりとした構成やビートを持たず、空間的な広がりを意識した静的な音楽です。橋本さんが作曲・演奏されるピアノ曲は、そのアンビエント・ミュージックやニューエイジ・ミュージックに分類される音楽です。アルバムの楽曲は実際に試聴していただくとして、このインタビューではアルバム制作の過程や、橋本さんのこれまでの音楽体験などを伺いました。

  • スタジオとホールで録音

――このアルバムを作るにあたって、スタジオとホールで計3日間レコーディングされたそうですが、もともとの計画では、スタジオとホールの録音を組み合わせて1枚のアルバムにするつもりだったんですよね

「そうです」

――でも最終的には、スタジオとホールは別のアルバムで出すことになったんですね

「今回のアルバムがスタジオ録音で、ホール録音のアルバムを冬頃に出す予定です」

――録音する前は、自分の中で完成予想というかイメージはあったんですか?

「曲順とかも考えて、アルバム1枚分で考えてたんですけど」

――ということは、もともと収録したい曲も決まってたんですか?

「作ってた曲を入れるのと、即興を4曲ぐらい録ろうかなと思ってたんですが、ホールの方で即興がむちゃくちゃいっぱい録れて(笑)。それでエンジニアさんとも話しをして、即興メインのアルバムでもいいかもねって。抽象的な感じの間に、ぽっと曲っぽいのが入ってたら映えるし」

――なるほど

「でも曲は曲で、出したい曲がそれこそ10曲あるし、どうしようかなって」

――で結局、どっちも生かして別々に出すことになったんですね。そもそもスタジオとホールと2ヶ所で録音しようと思ったのは何でなんですか?

「どうしても録ってみたいピアノが2台あったんです。あとは本当にシンプルなピアノソロなんで、ホールとスタジオを混ぜたら、音場が変わるのが面白いかなと思って」

――ホールとスタジオの音源を交互に混ぜる感じですか?

「そうなんですけど、録ってみてから、分けちゃった方がいいかなぁと」

――録った音を聴いてみて、混ざらないなぁって感じたんですか?

「即興のいい曲が録れたのが、ホールの録音がほとんどだったんで、即興メインのアルバムを作ってみたいって思ったのが一番です」

――ああ。音場というより、内容的に分けちゃった方がいいんじゃないかってことですね

「ホールとスタジオで同じ曲を録ったりしてるんですけど、最後に入れてる『grounding』はホールっぽいイメージだったんで、それだけホールの音源にしようかなって思ったんです。けど結局、スタジオの音で統一した方が流れで聴いてて自然な感じだったんで、全部スタジオになりました」

――このアルバムは、即興じゃなくて作った曲というのはどのぐらいあるんですか?

「2枚目のアルバムが即興中心で、今回は作った曲が多いです。タイトルが大文字で始まる曲が『Hikari』と『Mai』と『Rin』の3曲あるんですけど、それが即興です」

――なるほど!そういう見分け方ができるんですね。もともと入れようと思ってた曲は、今回のアルバムには入ってるんですか?

「2枚目の方に2曲入っていて、あとは全部このアルバムに入ってます」

――そうするとこのアルバムは、オリジナル曲+即興が3曲ということで、もともと作ろうと思ってたイメージに近いんですね

「そうですね」

――録ってみてから、ホール音源の即興は別にまとめた方がいいんじゃないかということになったと

「はい」

「今の音楽を弾くようになるまで」につづく>

橋本秀幸

1986年、大阪生まれのピアニスト、作曲家。空間を活かした即興演奏と、作曲作品を軸に音楽活動を行う。自然と奏でられるシンプルな美しい響きで、様々な楽器や声との共演のほか、 ヨーロッパでも映像とのコラボレーションを行うなど多彩な広がりを見せている。ソロピアノ2部作として『earth』を2012年6月にリリース、同年冬に『air』をリリース予定。

http://hideyukihashimoto.com/