特別編として、音楽履歴書と題して僕が今までたどってきた音楽遍歴をあらためて振り返っています。
その道のりを振り返ることで、音楽に関わる仕事の紹介にもなればと思っています。
長々と綴ってきた音楽履歴書の最後は、番外編的ではありますが、音楽関連の仕事を模索していた頃の話を書こうと思います。
先週までの3回の音楽履歴書に登場しなかった職歴、それが携帯電話ショップのチェーン本部の経理事務の仕事です。
その直前まで働いていた中古CDショップが閉店になった後、仕事のブランクを空けたくなかったために、かなり無理矢理選んだ仕事でした。
もちろん音楽とは全く関係のない仕事です。
すぐに神戸のCDショップに転職したため、わずか2ヶ月余りしか働きませんでしたが、正直あまりいい思い出はありません。
ただしひとつだけ、今でもよかったなぁと思っていることがあります。
それは事務所に1日中FMラジオが流れていたことです。
朝から晩まで、事務所から1歩も出ることなくずっとラジオを聴いていまので、この時期に流行った音楽だけは詳しくなりました。
「パワープレイ」とか「ヘビーローテーション」などと呼ばれる、毎月FM局が選定する推薦曲は、本当に耳にタコができるくらい聴きました。
何しろ1番組に1回は必ずかかるので、1日働いているうちに少なく見積もっても5~6回は同じ曲を聴くことになります。
それが1ヶ月続けば150回。
毎日毎日、エミネムとaikoが何回も何回も、まさに名前の通りヘビーローテーションしていました。
計算に集中しているときなどは、DJのしゃべり声が邪魔になることもあったものの、音楽を聴きながら仕事ができるのは楽しいことでした。
たとえ仕事が音楽と全く関係なくても、こうやって音楽に囲まれている環境があるならこれも悪くないかも、などと思ってみたりもしたものです。
携帯電話ショップの経理は、生活費を稼ぐために完全に割り切った仕事でしたが、今までに何度かあった失業時代には、音楽に関連している仕事なら何でもアタックしていました。
あるクラシック系の音楽事務所を受けたときは、事務所に面接に行ったものの「担当が急に出張になって出かけてしまいました」と言われ、腹が立つというより脱力してしまい、履歴書を返してもらってガックリと帰ってきたこともありました。
ピアノ運送会社の面接にも行きましたが「あなたみたいな経歴の人は、うちにはもったいない」と言われてその場でやんわり断られ、心の中で「逆学歴差別だ!」と叫んだこともありました。
結婚式場の音響スタッフというのも受けました。
面接会場に行ってみると、いきなり白いスーツに金ピカのネクタイをした、いかにも成金趣味なオジサンが出てきてびっくりしたものです。
当時は、第2次ベビーブーム世代の人たちが結婚適齢期を迎えていた頃だったので「なるほどブライダル産業って儲かるんだなぁ」と思ったことを覚えています。
ライブハウスにも電話で問い合わせをしたことがあります。
「勤務時間はバラバラだし、ライブがある日は日付が変わっても家に帰れないことも多いから、生活を犠牲にしてもいい覚悟があるなら来てください」と言われ、音楽は好きだけどとてもそんな根性はないと、すごすごと引き下がったのでした。
クラシック関係だと、オーケストラの事務局も何回か受けるチャンスがありました。
その時々で条件が合わずに諦めたのですが……。
また募集自体はなかったものの、有線放送にはクラシック専門チャンネルの担当がいるのかなとか、クラシックをたくさん放送しているNHK-FMにも、きっと専門の担当者がいるに違いないなどと、とにかく音楽を仕事にする可能性を色々と考えた時期でした。
こうやってあらためて書き出してみると、自分でも呆れるぐらいたくさんの分岐点があったんですね。
そのどれを選んでも今とは違った人生になっていたはずだけど、それぞれの分岐点を選んだときの自分を想像してみて、やっぱり今の人生が一番いいと思える僕は、きっと幸せものなのでしょう。
さて、4回に渡って書いてきた音楽履歴書はこれで終了です。
自分でも忘れていたようなことを色々と思い出せて、個人的には楽しかったです。
音楽と社会との繋がり方には色々な形があるんだなぁ、と少しでも思っていただければ幸いです。