2009-04-25 CDショップでお世話になった人たち

僕が大きな誇りを持ち、心から楽しんだCDショップ業界を去るまで、あと1週間を切りました。
日常業務の合間を縫って引継ぎノートを作ったり、お世話になったメーカーさんやお客様にごあいさつの連絡をしたりと、バタバタの毎日です。
しばらくは特別編として、僕が大学卒業以来たどってきた、音楽に関する仕事とその周辺を整理してみたいと思います。
今回はCDショップでお世話になった人たちです。

CDショップで一番お世話になるのがレコード会社の営業さんです。
ソニーやエイベックスなど、いわゆるメジャーレーベルと呼ばれる大手メーカーの営業さんは、新しく発売される新譜の受注のために、毎月お店に来られます。
そこで新譜案内書を見ながら「今回のアルバムは大反響を呼んだコンサートの実況録音で」などと説明を受け、注文する数を相談していくわけです。

営業さんはJ-POPや洋楽などとジャンル毎に担当が分かれているわけではなく、全てのジャンルを1人で受注してまわられます。
そのため各メーカーの営業さんでクラシックに詳しい人はほとんどいないのが現状で、新しいアルバムについての詳しい話を聞きたくても、新譜案内に書いてある以上のことはわからないことがほとんどです。
時にはこっちが「この演奏家は凄い人なんですよ」と教えることもあったりして、営業とは言っても押しが強いわけではなく(まれにそういう人もいましたが)、どこかのんびりとした関係でした。

メーカーの営業さんは全国あちこちへの異動が多いみたいで、結構短い周期で担当が入れ替わりました。
今回の退職にあたっても、東京の営業所にお電話させていただいた方が何人かいらっしゃいました。
異動された後は1度も会うことがない人も多いので、僕のように退職するケースじゃなくても、メーカーの営業さんとは別れがつきもののお付き合いと言えるかもしれません。
みなさん本当にお世話になりました。

輸入代理店の方々にもお世話になりました。
輸入代理店は海外のレーベルを輸入する際の窓口になるところです。
輸入盤CDの仕入れはCDショップが海外と直接やり取りするのではなく、この輸入代理店を通じて仕入れています。
日本には大小たくさんの輸入代理店があり、それぞれ取り扱っているレーベルが違うので、必要に応じてそれぞれの代理店に発注をすることになります。
輸入代理店の多くは東京や関東にあり、注文は基本的に全てFAXやメールで行なっていました。
そのため関西に営業所がある国内メーカーとは違って、直接お会いする機会はあまりありませんが、取り寄せ商品の入手の可否や納期の確認などをする際に、電話でお話をすることはよくありました。

僕は梅田店にいたときに輸入盤の仕入れを担当していたので、各代理店の担当の方々とは割とまめにコンタクトを取っていました。
発注の際の参考にするために、まだ入荷前の新譜のサンプル音源を送ってもらったり、セールのための値下げ交渉をしたりなど、ずいぶん無理も聞いていただきました。
数年前、東京に出張に行った時にいくつかの輸入代理店をまわり、いつもお世話になっている担当の方とゆっくりお話させていただいたのは、今となってはいい思い出です。

梅田店では店内でのプロモーションライブやコンサート会場でのCD販売などを頻繁に行なっていた関係もあり、音楽事務所やオーケストラの事務局の方々、コンサートを主催するプロモーター、コンサートホールの方など、コンサートの現場に近い人たちにも色々とお世話になりました。
通常、コンサートホールでCD販売を行うショップは、ホール毎に専属的な契約を結んでいることが多いのですが、あるプロモーターさんは主催する公演の際に、僕を指名して特別にうちの店を使っていただくなど、随分とよくしていただきました。
同じクラシック業界と言っても、小さなCDショップだとコンサートの現場で働く方との接点はほとんどないのですが、僕がいた店はいずれも大きなお店だったので、そうした方々とのお付き合いがあったのは、本当に貴重な体験だったと思います。

そしてCDショップを通じて、音楽を心から愛する多くのアーティストの皆さんと出会うことができたことは、何よりの幸せでした。
CD発売のプロモーションで来日した世界的アーティスト。
一般公募のコンサートに応募してきた有能な若いピアニストやヴァイオリニスト。
店内でのコンサートをきっかけに、当時の店長が橋渡しをしてCDデビューされたピアニストもおられます。
他にも本当にたくさんのアーティストの方々と交流が持て、音楽や文化についての貴重なお話が伺えたことは、僕の大きな財産になりました。
そしてそれは僕がCDショップという場所から大きく視野を広げる、ひとつの大きなきっかけにもなったのです。
クラシックファンのために何かをしたいという気持ちに、演奏家のために何かをしたいという気持ちが加わったのは、多くの演奏家の方々と直接お話する機会があったからこそです。

クラシック業界というのは案外狭い世界です。
輸入代理店の方の何人かは元々CDショップの店員だったそうですし、レコード会社の営業さんの中には何社も渡り歩いている方がいらっしゃいました。
またホール関係者にもレコード会社出身の人がおられたり、音楽関連の出版社からレコード会社に転職された人がおられたりと、クラシックという世界の中でぐるぐると人材が循環しているような印象があります。
だから退職してお別れするのは寂しいけど、CDショップで出会ったみなさんとは、きっとまたどこかでお会いできるんだろうなという妙な確信があります。
次に会うときには一回り成長した姿を見せられるように、新しいステージでも頑張っていきます。