【クラウドファンディング16日目】 電子ピアノの表現力

レコーディングスタジオの電子ピアノは、多分普通の人がイメージしている電子ピアノとは少し違います。電子ピアノの本体に内蔵されている音ではなく、レコーディング用のパソコンを通してピアノ音源ソフトを鳴らしています。ピアノ音源だけでも色んなメーカーからソフトが出ているんですが、今回僕が使っているのは「Ivory」というソフトです。色んなレビューや比較動画を見ていると、「Ivory」は今出ている音源ソフトの中で一番グランドピアノの音に近いという評価が多いです。さすがにピアノ独奏だと限界がありますが、アンサンブルの中でなら割といい線いくのではないかと思っています。

とはいえ、やはり電子ピアノは電子ピアノです。ピアニストの方は、グランドピアノと電子ピアノのタッチの違いに戸惑ったことがあると思います。僕も電子ピアノを使う演奏の現場では「ピアノ・ピアニシモは捨てて、全体にダイナミクスを一段階上げてしっかり目で弾いてください」とお願いすることが多いです。
レコーディング用のソフトは市販の電子ピアノよりは遥かに精度が高いとはいえ、 今回のレコーディングでも、奈良さんの繊細なタッチが電子ピアノの限界を超えていて、音が抜けてしまった箇所がいくつかありました。電子ピアノのデータは後から修正できるので、録ったデータを見ながら抜けた音を足したり、ダイナミクスを本来の意図に近づけるために整えたりしています。

こうした人工的な作業には、拒絶反応がある人もおられるかもしれません。でも個人的にはこの作業があることで、音楽的な要素をより緻密に構築しているという充実感があります。もちろん、本来の演奏とは違うことをしてもらっている奈良さんには、とっても申し訳ない気持ちですが、僕のわがままを受け入れてくれて本当に感謝しています。