のだめのストーリーで引っかかっていることがある。ピアニストが○で、幼稚園の先生が×という二択には納得がいかない。のだめに幼稚園の先生としての才能があったなら、逆の立場で幼稚園界からも引き止めることができるはずなのに。
「もったいない」
芸大や音大を卒業した人が演奏活動以外の道を選択すると、たいていこう言われる。僕自身が何度も言われてきたし、まるで落武者を見る目で見られているような雰囲気を感じることすらあった。確かに音楽活動を辞めた当初は、まだ演奏活動に未練もあったし、いくら口で「これでいいんです」と説明しても、そもそも自分自身がその言葉に確信を持てなくて、苦笑いを浮かべながらやり過ごすしかなかった。本当に自信を持って「これがいいんです」と言えるようになったのは、ここ数年の話だ。
「のだめカンタービレ」は僕も大好きでコミックは全巻そろえているし、もちろんドラマも見たし映画も前後編とも見に行った。のだめの世界は、音大生やクラシック界の雰囲気を本当によくとらえていて、芸術を追求する登場人物たちの気持ちは、かつて同じ立場だった者としてすごく共感できる。
でも、演奏以外の道に確信を持って進んだ立場から見ると、主人公ののだめが幼稚園の先生になりたいと望んでいるんだったら、そうさせてやればいいのに、とも思う。きっと、のだめならその音楽的センスと変態的な性格をフルに生かした、型にはまらないいい先生になれるんじゃないかな。そしてもし、のだめが音大に行っていなかったら、ただの変態的な先生にしかなれなかったかもしれないと考えると、幼稚園の先生になることは決して「もったいない」ことではない。のだめが幼稚園の先生になった、もう一つのストーリーも見てみたい気がする。