「右手のピアニスト」として活動されている樋上眞生さんの演奏動画を紹介します。いくつかのコンクールで上位入賞、デビューアルバムを制作してこれからというとき、レコーティングの直前にジストニアを発症、左手の人差し指が曲がってしまうという障害が出てしまいます。最終的にアルバムは両手のレパートリーを収録できたものの、その後の演奏活動は「右手のピアニスト」として再スタートされることを決意されました。
何故かわからないんですが、クラシック界には昔から「左手のピアニスト」は一定数おられて、有名な作曲家も含めてたくさんのレパートリーが残されています。そして現在も、舘野泉さんをはじめとする著名な「左手のピアニスト」によって新しいレパートリーが開拓されています。ところが「右手のピアニスト」というのはほとんどおられなくて、曲も数えるほどしかありません。
動画で演奏されている「ショパンのエチュードによる練習曲」は、ゴドフスキーがショパンのエチュードを更に難しくアレンジしている曲集で、最難関の超絶技巧曲集として知られています。特に全曲演奏した人は世界でも数人しかいません(その昔、人間には完璧な演奏は不可能と言われていた時代に、コンピューターが演奏する全曲CDというトンデモ盤が発売されたこともあります)。そのゴドフスキーの曲集には片手だけで演奏されるアレンジも数曲含まれていて、樋上さんが演奏されている「革命のエチュード」は左手のための曲ですが、それをそのまま右手だけで演奏されています。
という前提をお話しさせてもらいましたが、この演奏はぜひその前提を忘れて聴いてみてください。
右手のためのレパートリーを独自に開拓していかなければいけなという、茨の道を歩まざるを得ない樋上さんに、僕の立場で何かお手伝いできることはないかなといつも思っていて、樋上さんの役に立つかどうかわからないおせっかいを少しさせてもらったりしています。この機会に素晴らしい「右手のピアニスト」がいること、極わずかなレパートリーをベースに、現状では自分で編曲して活動を広げていかなければならないという現状を知ってもらえると嬉しいです。