2017-10-09 井阪美恵×南部由貴デュオ・リサイタル インタビュー 3/4

  • フォーレのソナタ第2番とその時代

 リサイタルのプログラムを考えていたとき、プロコフィエフの次に決まったのがドビュッシーのソナタでした。もう1曲を何にするか。100年のくくりを形にするという思いにふさわしい曲を色々と考えた結果、たどり着いたのがフォーレの第2番のソナタでした。

井阪「リサイタルの案内をしたヴァイオリン奏者みんなから、『え、2番を弾くの?!』と言われたぐらい、めったに演奏されない曲です。私もコンサートをたくさん聴きに行っていますけれど、生では2回ぐらいしか聴いたことがないです。ちょっと宇宙的な曲というか、明らかにフォーレだという部分もいっぱいあるけれど、でもフォーレのイメージからはかけ離れている曲です」

 フォーレのヴァイオリン・ソナタは2曲あり、第1番(作品13)はフォーレが30歳の1876年に、第2番(作品108番)は晩年の1917年に作られています。100年のくくりを形にするためには、人気のある第1番ではなく、第2番を選ぶ必要がありました。フォーレの曲は頻繁に転調することが特徴で、それは2つのヴァイオリン・ソナタにも現れてますが、転調の仕方に時代の変化が反映されているのではないか、と井阪さんは考えています。

井阪「もちろん第1番もいっぱい転調するんですけれど、転調する速度が第2番に比べると倍以上遅いんです。そのスピード感がすごく19世紀という感じがします。でも第2番になると『今これは何調?』って思ってる間に次に行って、またわからないうちに次に行くので、自分が今どこにいるのか把握するのにまず時間かかります。この曲は転調しすぎて無調に近くなっているんです。19世紀と20世紀では物事が進むスピードが全然違うから、そのスピード感が出ていると思います。

 戦争の話に戻るんですけど、第一次世界大戦で初めて化学兵器が使われたり、それまでの戦争にはなかった飛行機が登場したりした。だから19世紀までにやっていた物事とは、20世紀はテンポもスケールも全部が全然違う。それは音楽にも自然に出ていると思います。でも、よーく考えたら解ける転調なんです。全部、前から繋がっている音があって変わっていくから、よくよく見たらすごく古典的な転調で、絶対に説明はつくんです。だけどそれがあまりのスピードなんで、認識できないまま変わってしまう」

 調性を認識できないぐらいに転調を繰り返すフォーレの第2ソナタは、ヴァイオリニストだけでなく、和音を司るピアニストにとっても、大変な曲だと言います。

南部「ピアノはめっちゃハードです。体力的にも精神的にも技術的にも。フォーレを弾く精神状態に持っていくのがすごく大変。ドビュッシーは割とすんなり弾けるし、プロコフィエフもまあ手が動けば弾けるんですけど、フォーレは音色作りとかフレーズ作りがすごく難しくて。ただ音符を弾くだけで音が鳴る曲じゃない。耳と頭と目と手が、一緒にそのままのスピードで行くようになるのに4ヶ月ぐらいかかりました」

井阪「第2番のソナタはプロコフィエフとは全然違います。プロコフィエフの場合は、ここはマーチとかわかりやすい描写があるけど、フォーレにはそれは全然ない。ドビュッシーみたいな視覚的な要素もない。何かのメッセージ性があるわけではないし、誰かの死を悼んで書いたとかそういう曲でもないし、そういう意味では純粋に絶対音楽として書いています。第1番に比べたら、転調の早さもそうだけどリズムもすごく早く動くし、同じテンポの中に入っている情報量が多い。スピード感とか現代的という意味ではすごく20世紀的な曲だと思います」 <パート4「視覚的要素の種類」につづく

(公財)青山財団助成公演 井阪美恵×南部由貴 デュオリサイタル
日時:2017年 10月28日(土)17:00開演(16:30開場)
http://barocksaal.com/concert_schedule/concert20171028.html

入場料:一般¥3,000・学生¥2,000(当日各¥500増)全席自由
会場:青山音楽記念館バロックザール
《演奏曲目》
◆ドビュッシー/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
◆フォーレ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 Op.108
◆プロコフィエフ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 Op.80

《チケット販売》
◎青山音楽記念館 075-393-0011
◎チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード 330-368)
※未就学児入館不可

◆井阪 美恵 Mie Isaka ヴァイオリン
 桐朋女子高校音楽科卒業。在学中、桐朋学園オーケストラのフォアシュピーラーや首席ヴィオラ奏者を務める。桐朋学園大学在学中に渡仏し、2010年パリ国立地方音楽院最高課程を修了。同年よりピエール・アモイヤル氏のもとで研鑽を積み、2011年にはアモイヤル氏とブラームスの弦楽六重奏を共演。2012年スイス・ローザンヌ高等音楽院学士課程ヴァイオリン科を満場一致の最高点を得て首席で卒業。同音楽院よりにエクセレント・リサイタル賞を授与される。
 その後、国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学で学び、2016年に同大学修士課程を満場一致の最優秀で修了。在学中はモーツァルテウム管弦楽団のエキストラとしても活動。2008年パリ・ヴァトロ=ランパルコンクールにて第1位及び審査員特別賞を受賞。第21回ブラームス国際音楽コンクール(オーストリア)室内楽部門にて、ヴァイオリンとピアノのデュオとして唯一セミファイナリストに選ばれる。2017年秋篠音楽堂室内楽フェスタ賞受賞。
 これまでにヴァイオリンを田中千香士、石井志都子、フレデリック・ラロック、ジェラール・プーレ、ピエール・アモイヤルの各氏に、室内楽をヴァンサン・コック、パトリック・ジュネ、レオナルド・ロチェックの各氏に師事。2016年より拠点を日本に移し、いずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとして『ウィーン・ムジークフェスト2017 Vol.3』に出演するなど、オーケストラ、室内楽、ソロなど、年間60回を超えるコンサートに出演中。ウェブサイト:http://www.mieisaka.com/

◆南部 由貴 Yuki Nanbu ピアノ
 桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科を経て渡欧。ウィーン国立音楽大学ピアノ室内楽科を最優秀の成績で、同大学院修士課程を審査員満場一致の最優秀で修了。第5回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位、併せてルーマニア政府観光局賞を受賞。第8回トレビーゾ国際音楽コンクール室内楽部門、現代音楽部門において第1位。第1回ベルリン。ライジングスターズグランプリ国際音楽コンクール室内楽部門にて奨励賞を受賞。
 桐朋女子高等学校音楽科卒業演奏会、関西桐朋会新人演奏会、読売新人演奏会、ベートーヴェンハウス(ハイリゲンシュタットの遺書の家)でのコンサート”ベートーヴェンの午後Ein Nachmi ttag mi t Beethoven″ 、シューベルトの生家でのウィーン若手演奏家コンサートシリーズ”Junge Talente”、在パリ日本文化会館での”作曲家・伊福部昭オマージュコンサートなど、数多くの演奏会に出演。これまでにポーランド国立クラクフ室内楽管弦楽団、鹿児島モーツァルト室内オーケストラと共演するなど、ソリスト、アンサンブルピアニストとして演奏活動を行っている。
 これまでにピアノを片野田郁子、兼松雅子、吉村真代、アヴェディス・クユムジャン各氏に、室内楽をアヴェディス・クユムジャン、藤井一興、原田敬子、テレザ・レオポルト、ゴッドフリート・ポコルニー、シュテファン・メンデル各氏に、歌曲伴奏法を木村俊光、ダヴィッド・ルッツ各氏に師事。現在京都在住。ウェブサイト:http://www.yuki-nambu.com