昔、あるコンクールの市民審査員をしたことがある。それはピアノ、管弦打楽器、声楽など全てのジャンルが混合したコンクールで、何を基準にして聴いたらいいのか難しいなと思った。少し悩んだ結果、僕は「続きを聴きたいと思った人」に票を入れることにした。つまり、コンクールの出場者全員がリサイタルを開くことになったとき、誰のコンサートだったら行きたいのか、という一点に絞って聴くことにしたのだった。
その基準で考えると、現時点での技術的な優劣は、判断の要素としてそれほど重要じゃないということに気づいた。例えば、技術的に間違いなく優れていると思っていても、でも他の曲も大体同じパターンで演奏してしまうんだろうなぁと感じてしまったら、次への期待がさほど感じられないケースもあった。逆に、その時点では未熟さが感じられても、成長を追いかけてみたいと思える人もいた。もちろん全て主観が色濃く反映されてしまうが、我ながら面白い基準だなと思った。
どうやら僕は演奏の現場でも、似たような基準で聴いているようだ。技術的にまだまだ未完成、自分に完全に自信が持てなくて伸びしろだらけの状態でも、会場の反応が予想以上にいいことがある。ひょっとすると、テクニックだけでは語ることができない何かを持っているのかもしれない。そういう現場に遭遇すると、その人の続きを聴きたくなる。