隔月ペースで担当させていただいているクラシック講座、前回のテーマは「バッハのフーガ」でした。フーガという様式を説明する「お勉強の回」だったので、少し難しかったという反応が多かったようです。この講座は銀行の会員さん向けのものなので、集まって来られる方は特別にクラシック音楽に詳しい方というより、ごく普通の愛好家の皆様が多いように思います。この講座をやらせていただいて5年になりますが、3年目ぐらいから「この講座がきっかけでクラシックを聴くようになりました」という反応が返ってくるようになり、そうか、僕がやっていることは、クラシックファンを増やす啓蒙活動なんだ、ということを強く意識するようになりました。
個人的な意見ですが、日本でクラシックのコンサート会場が社交の場として機能して、それを楽しみに人々が足を運ぶ文化になるというのは、少なくとも僕が生きているうちは難しいだろうなと思っています。それよりも日本人はきっと、知的好奇心を刺激してくれるカルチャースクールのような形の方が馴染むのかもしれないなぁ…などと思っています。そんなことを考えるようになったのがこの2~3年ぐらいで、今やらせてもらってる講座が、まさにそのひとつの機会なんだなって思うようになりました。
今の僕は、演奏家の受け皿を増やすことよりも、クラシックファンの聴衆を育てることに関心がシフトしています。育てるという言い方がふさわしくなければ、最終的に一流の演奏家のコンサートを楽しめるようになるための階段を作りたい、という感じです。例えばコンサートでそれを実現するためには、初めて聴くような曲でも、より楽しく、より集中して聴いてもらえるような仕掛けを作ることが重要になってきます。今までの僕は、それは演奏家自身が考えて、演奏家自身が実践するものだと思っていました。が、最近では、その役割を僕がやればいいんじゃない?というところに来ています。
その試みのひとつが、8/9・10・11にミタホールで開催する『カルテ』です。怪しい占い師に扮した僕が、オペラアリアの歌詞の内容とか、そのアリアに至るまでの登場人物の境遇を、割と丁寧にしゃべります。歌詞を知らない人でも楽しめると思うし、普通のオペラアリアのコンサートよりも、登場人物に感情移入してもらえると思います。レクチャーでもあり、エンタメでもあるというところを狙った実験です。