2009-08-22 ツッコミのススメ

僕はクラシックコンサートの聴き方に関して、多分あまり行儀のいいリスナーではない。
演奏中に大きな物音をたてないとか、咳払いは楽章と楽章の間でするとか、そういった基本的なマナーはもちろん守るけど、妻と一緒に聴きに行くときには、ステージ上で気になる動きを見つけると、演奏中にこそこそとしゃべりかけてしまうのだ。
それも「ヴァイオリンの後ろから2番目の人、ノリノリで体動かしてるよ!」とか、「あのクラリネットの人、難しいソロを吹き終わった後に、得意気にニヤッとしてたね」とか、演奏に直接関係ないような、くだらないことばかり。
要するに、テレビを見ながら「そんなアホな!」と画面に向かってツッコミを入れるのと同じ感覚だ。
我ながらあまり品のいいことではないと知りつつも、でも一緒に見ていないと共感してもらえないし、わざわざ終演後に話すほどでもないちょっとしたことだから、その場で消化しないともったいないと思ってしまう。
もっとも、付き合わされる妻にしてみればいい迷惑なのだろうけど。

ならば、隣にしゃべりかける人がいない場合はどうか。
それでもやっぱり、僕の頭の中では細かいツッコミが絶えず行なわれている。
表面上はおとなしく聴いているけど、行儀の悪い性分が治るわけではないのだ。
「譜めくりの女の人、楽譜めくるタイミングが遅いよ!」
「打楽器のあの人、最初からずっと座ったままだけど、いつになったら出番があるのかな?」
これは音楽を聴くというよりは、人間観察と言ったほうがいいのかもしれない。多分こんな人間観察的ツッコミ目線は、本来のコンサートの中身とは関係のない、どうでもいいことなんだろうと思う。
でも、その夜のことを思い起こすときに最初によみがえるのは、案外そういうどうでもいい記憶だったりするのだ。
そのどうでもいい記憶のおかげで、コンサートの様子がより生き生きと思い出せるということは、きっとあるんじゃないだろうか。

ライブの空間というのは音だけを聴いているわけではないんだから、会場の雰囲気、イスの感触、開演直前の観客の様子、ステージ上の演奏家たちのちょっとしたしぐさ、演奏が終わって袖に下がっていくときの表情などなど、音楽に関係あることもそうでないことも、その全てを全身で楽しまなきゃソンだ。
静かにおとなしく聴かなきゃいけないとされているクラシックのコンサートだって、心の中ではどんなに独り言を言ったって、誰にも迷惑はかからない。
行儀の悪いリスナーの代表として、次のコンサートからはぜひ、心の中でぶつぶつとツッコミながら人間観察を楽しんでみることをおすすめしたい。