金管楽器の世界にある、ハイトーンを崇拝する空気が苦手です。その価値観の中では、音楽性の豊かさよりも先に、高い音を外さず正確に吹ける人=無条件に上手い人と思われているような気がします。楽曲についても同様で、金管楽器のために作られた独奏曲は、こぞって高い音が出てきます。まるで、その音を使わなければならないという決まりでもあるかのように。そして演奏者は、本番でハイトーンが出るか出ないかギリギリのコンディションで、えいやっと一発勝負を仕掛けます。そんなギャンブルみたいなことを繰り返さないといけないって、どういう音楽文化なんだ?とずっと不思議でした。
以前ある老人ホームで、合唱曲としても有名な歌曲「落葉松」をホルンで演奏する機会がありました。ホルンのために書かれた独奏曲と比較すると、音域は低いし早いパッセージもないので、演奏の難易度としては易しい部類の曲です。でも、音楽を作るという意味では決して易しくなく、譜読みをしている時間はとても楽しく充実していました。そして、ダイナミクスや発想記号が細かく書かれた小林秀雄さんの音楽に触れられたことは、ホルンの曲だけをやっていたら出会うことがなかった世界で、とても新鮮で勉強になりました。
その体験もあり、今回のレコーディングで用意した曲は、ほぼホルン以外の楽器のための曲にしています。もちろん高い音は出てきません(全ての曲を通じて、最高音はCが1回出てくるだけです)。現役の頃から比べるとスタミナもテクニックも相当劣化しているのに、今の方が音楽の流れに没頭できている感覚があります。演奏をやめて20年以上後にこんな世界が待っているなんて想像もできなかったので、とても驚いています。僕が知らない音楽の世界がまだまだあるんだろうなぁ。