クラシックの演奏家は、コンサートでのアンコール曲を何にするか悩むことがあるといいます。あまりにポピュラーな曲にしてしまうと、本編の印象が霞んでしまうことがあるからです。多くの場合、アンコール曲よりもメインの楽曲の方が数段難しく、何倍も時間をかけて掘り下げているのに、オイシイところを全部アンコールに持っていかれるのではたまりません。
僕が講師を務めているクラシック鑑賞講座で、3年前の今日、エルガーを取り上げたことがあります。数日前から準備をしていて、ふと開催日が8月6日であることに気づきました。しばらく考えた末、当初予定していた構成を一部変更して、最後にエルガーとは全く関係ない、カザルスの「鳥の歌」を、それも1971年の国連デーでの有名なスピーチ(「故郷カタロニアの鳥たちは、Peace! Peace!と鳴くのです」)つきの音源を聴いてもらうことにしました。
この曲を、そして95歳になろうとしていた老カザルスのこの演奏の意味をご存知の方は、これがどんな重みを持っているのか、わかっていただけると思います。その日の講座はたまたまエルガーという地味な作曲家だったこともあり、講座の印象が最後の「鳥の歌」で全て吹き飛んでしまうかもしれない、ということも考えました。でもそれを天秤にかけてもなお、8月6日にカザルスの「鳥の歌」を一緒に聴くという行為の尊さを選びました。
僕にとって夏はカザルスの季節です。