2005-12-24 信は力なり

現在と過去(と言ってもほんの数十年前)を比べてみた時、今の世の中には「信じる」ということが少なくなってきたなぁと思います。最近の無差別的な凶悪事件もそうですが、「ゲタが裏返ったら雨」みたいな迷信や、サンタクロースをはじめとするファンタジックな言い伝えなど、日常生活に密着した「信」も薄くなってきているなぁと。そしてふと、そんな生活が味気なく思えてくることがあります。

ここに「バーンスタイン・イン・ロシア」と題された1枚のCDがあります。知る人ぞ知る爆発的な熱演、バーンスタインとニューヨーク・フィルによる、冷戦さなかの1959年ソビエトでの演奏です。これが熱いんです。熱すぎるんです。最初の1音からそのテンションの高さに圧倒されます!オーケストラという1人の巨人から放たれる音の塊!そのすさまじいエネルギィがブラームスの音楽にとって必要かどうかは、もはや問題ではありません(ラヴェルに至っては、そのパワーが強烈すぎて音が割れています)。

ここには、かつては当たり前の存在としてあった「信」の力が確かにあります。音楽を演奏するという行為を無垢に信じたバーンスタイン。そのバーンスタインというたった一人の男を信じて、己のありったけの音楽をぶつけたオーケストラマンたち。そして恐らくは、ソビエトという完全アウェーの中で、自分達の祖国を信じていたであろうアメリカ人たち。心も震えるほどの「信」がここにはあるのです。爆演という表面的な言葉だけでは片付けられない、ある種の信仰にも似たパワーに深く感動するのです。

  • 「バーンスタイン・イン・ロシア」(ベートーヴェン:エグモント序曲、ブラームス:交響曲第1番、ラヴェル:ラ・ヴァルス)※モノラル録音
  • バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
  • OM 03-131(輸入盤)