カルテ終演【カルテ】

「0と1との差は無限大」と言われます。何もないところから何かを産み出すことは、とても尊い行為だと思います。今それを実感しています。

カルテの3日間が終わりました。会場に足をお運びいただいた皆様、ありがとうございました。知り合いが出ているからという動機で来ていただいた方にも、ストーリー全体を楽しんでいただけたという手応えを感じました。気にかけていただいた方々、ありがとうございました。来られないことを本気で残念がってくださる気持ちが、とてもありがたかったです。出演者の皆様、ありがとうございました。色んな意味で前例がない妄想を、素敵に形にしてくれて感謝しています。そして、共同主宰者の森田さん。僕にとっての大切な一歩を踏み出せたのは、森田さんのおかげです。本当にありがとうございました。

もともと、カルテの出発点となっている考え方は、「どんな状況でどんな気持ちの歌を歌っているのか、クラシックに詳しくないお客様にも理解していただけるように説明する」ということです。どうすればオペラアリアを感情移入して楽しんでもらえるか、ということを考えて、芝居の部分を作っていきました。逆に言えば、曲の状況がちゃんと伝わる方法であれば、芝居仕立てである必要はありません。終演後の反省会でも、そのことは話題になりました。例えば、プログラムにストーリーが全て説明してあればいいのではないかとか。でもプログラムを読む派と読まない派で見解がわかれていましたが。個人的には、プログラムや歌詞がなくても、ステージを見ているだけで歌の心情を理解してもらえるのが理想なので、芝居にするのが最善の方法だと考えていました。とはいえ僕の脚本や演技は、現時点では高校の文化祭レベルだということは重々自覚しております。今はあえて「どこを取っても伸びしろしかない」と言わせてください。カルテは今後も、演劇ではなくあくまでコンサートという枠組みにしたいと思ってるので、演劇とはまた違った芝居として、ガラパゴス的に成長していくことを自分自身でも期待しています。

舞台そのものとしては、3日間を通して「本物のオペラを見に行きたくなった」という感想をたくさんいただけたのが、とても嬉しかったし励みになりました。僕は常々、自分はクラシック音楽界の大きなピラミッドの中にいる一員だという意識を持っています。自分が新しい企画を考えるときには、どんな形でもいいからクラシック界のどこかに繋がっているようなものになるといいなと思っています。今回のカルテは、カルテだけで完結するステージではなく、その先のオペラや超一流歌手のコンサートへと繋がっていく階段になれるという可能性をとても強く感じました。

カルテがクラシック界の階段になるために、芝居の部分を作っているときには「オペラのストーリーは壊さない」ということを心がけていました。オペラの登場人物が占いの館に行くことによって、オペラのあらすじが変わってしまわないように気を遣いました。実際のオペラを見に行ったときに「あれ?話が違う??」と思われるのは困るのです。例えば「魔笛」に出てくるタミーノが、夜の女王の娘の絵姿を見て一目惚れするアリア「なんと美しい絵姿」の場合、本来そのアリアが歌われるシーンは、前後の展開がひと続きになっているので、その間にタミーノが占いの館に行くことはできません。だから、タミーノはそのアリアを歌ったあとで占いの館に行き、占い師の前で、娘の絵姿を見て一目惚れしたときの様子を回想する、という展開にしました。もちろん、やり方にはまだまだ改善の余地がありますが、ストーリーを壊さないという原則は守れたと思います。

集客に関しては反省しかありません。もっとも今回は、どんな舞台なのかほとんどわからないままでの宣伝だったので、出演メンバーもイマイチ押せなかったというのはあったのかもしれません。次回からは自信を持って「面白いから来てよ!」と言えると思います。今はまだ「知り合いに声をかける/知り合いが出てるから行く」という既存の集客スタイルですが、いつか「カルテって面白いらしいから行ってみようよ」という人たちが出てくることを夢見ています。ちなみに、僕が好きなエピソードに「AKBの旗揚げ公演の一般来場者は7人だった」というのがあります。これを密かに心の支えにして、これからも頑張っていきます。

最後にひとつ。僕が考えているカルテの理想の姿は「LOHAS」です。ひところ流行った言葉ですよね、ロハス。「健康で持続可能な生活様式」と訳されます。今回の舞台を終えて、みんなからアイデアがどんどん湧き出てきました。どれも面白そうだし、いつかやってみたいものばかりなんですが、まずはどんなに小さくてもいいから、今回のような規模の舞台をベースに、無理のないやり方で継続していける方法を探っていきたいと思います。次回公演は12月を目指して計画中です。そのときにまたお目にかかりましょう。