今年の7月初め、インターネット上の複数のメディアやブログが、あるカントリー歌手が作ったユニークな歌のことを一斉に報じた。
面白ニュースとしてあちこちで言及されているので、既にご存知の方も多いかもしれない。
ユナイテッド航空の手荷物係に、大切なギターを壊された怒りを歌った「United Breaks Guitars」という歌である。
【7月10日 AFP】米ユナイテッド航空(United Airlines)の空港手荷物係に大切にしていたギターを壊されたカナダ人ミュージシャンが、「報復」としてこの経験を歌にし、動画共有サイト「ユーチューブ(Youtube)」に投稿したところ、大ヒットとなっている。
曲のタイトルは「United Breaks Guitars(ユナイテッドはギターを壊す)」。作詞作曲したデーブ・キャロル(Dave Carroll)さんは、2008年にシカゴ(Chicago)のオヘア(O’Hare)空港で、宝物のように大事にしていたテイラー(Taylor)社のアコースティック・ギターを壊されるという不運に見舞われた。
(中略)
キャロルさんはその後、数か月にわたり、損害賠償および破損した楽器の修理代の補助として計3500カナダドル(約28万円)の支払いをユナイテッド航空に求め続けたが、交渉は失敗に終わった。
そこでキャロルさんは作戦を変更。この経験を曲にして歌い、ユーチューブに投稿することを思いついたのだ。「一種のひらめきだったよ」
(中略)
このビデオは9日までにユーチューブで50万回近い再生数を記録したほか、カナダと米国の主要ニュースネットワークでも取り上げられた。
空港でギター壊され「恨み節」の歌、ユーチューブで大ヒット 国際ニュース – AFPBB News
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2619910/4347980
デーブ・キャロルが、この曲をyoutubeに公開したのが7月6日。
上の記事によると、たった3日後の9日には既に50万回近い再生数だったという。
これを書いている9月末の段階では、再生数は560万回を突破している。
デーブ・キャロルという歌手が、元々どれほどの知名度があった人なのかは知らないけど、きっとほとんどの人たちは、この動画によって彼を知ったんじゃないかと思う。
もちろん、僕もその一人だ。
ユナイテッド航空への抗議の目的も完璧に果たした上に、デーブ・キャロル自身も一躍、時の人となった。
彼の作戦は、見事すぎるほどにハマったわけだ。
この曲がこれほど大ヒットしたのは、もちろん第一には、この曲を作ることになった動機がユニークだったからだろう。
でも個人的には、それ以上に重要だと思っている要因がある。
動画が見られる人は、ぜひ一度聴いてみていただきたい。
この歌はニュースの記事からは想像もできない、実に爽やかなカントリー・フォークなのだ!
歌詞はそのまんま、ユナイテッド航空にギターを壊されて補償を断られたことを綴っているのに、曲はあくまで爽やか。
そしてその爽やかな歌を、なかなかのイケメン、デーブ・キャロルが爽やかな笑顔で歌っているのだ。
「♪ユナイテ~ッド(ユナイテ~ッド)」というサビのフレーズも、どこかユーモラスで中毒性がある。
この曲がここまで話題になったのは、この爽やかさゆえだと思う。
何と言っても、聴いていても全く心が痛まないのがいい。
僕が感心したのは、デーブ・キャロルが決して自分のスタイルを崩さなかったことだ。
カントリーやフォークのジャンルには詳しくないけど、多分フォークにも怒りをぶつけるような激しい曲調はあると思う。
だけどそれは、きっと彼のスタイルではなかったのだろう。
彼のホームページでいくつか曲を聴いたが、どれも穏やかで楽しく、また美しい曲だった。
宝物のように大切にしていたギターを壊され、何ヶ月もかけた抗議も実らず交渉は決裂、その腹立ちを歌にしてプロモーションビデオも作った。
ここまでするからには、相当な怒りのエネルギーがあったはずだ。
でも彼は、あくまで自分のスタイルで抗議した。
彼のミュージシャンシップには感動すら覚える。
怒りに任せて大声を張り上げるのは、実は簡単なことなのだ。
クラシックの世界にも、これとよく似た曲がある。
……と続けば、かっこよかったんだけれど、僕の記憶の中からは、残念ながら見つけることができなかった。
逆に言えばデーブ・キャロルがやったことは、そのくらい珍しくて凄いことだと言えるのだろう。
怒りを自分のスタイルで浄化させたクラシック曲、誰か知りませんか?