2009-02-21 妄想バレンタイン

毎年、この時期になると頭を悩ませることがあります。
バレンタイン・デー特集企画です。
季節感を演出するという意味合いもあって、CDショップでも毎年バレンタイン・コーナーを作るのですが、そのアルバムのセレクトがどうもしっくりいかないのです。
例えばJ-POPコーナーだと最近流行っているラブソングを中心に選べばいいのですが、クラシックはそういうわけにもいきません。
いや、そもそもバレンタイン・デーにクラシックのCDを買ってプレゼントすることってあるんだろうか?
企画自体に無理があるんじゃないのと思いつつも、チェーン全体の共通企画ということもあり、クラシックフロアだけバレンタイン・コーナーを作らないわけにもいきません。
アルバムのセレクトは各店に任されているので、昨年までは「どうせ何を選んでも誰も買わないんだし」と、適当に甘いムードの聴きやすい曲を選んでお茶を濁していましたが、今年はちょっと本気で考えてみることにしました。

まず、彼女は誰にプレゼントしようとしているのか。
義理のプレゼントなのか、憧れの人に告白する本命プレゼントなのか。
チョコならともかく、CDとなると少なくとも義理であげるものじゃないだろうな。
かと言って、これから告白する相手にクラシックのCDを渡すというのも、ちょっと考えにくい。
きっと2人は既に付き合っているカップルに違いない。

例えば、ケイコとテツヤというカップルがいるとしよう。
そのケイコが彼のためにクラシックのCDを選ぶというのは、どういう状況が考えられるだろうか?
クラシックが好きなケイコが、彼のためにCDを選んでプレゼントするのかな。
そのケースだと、テツヤは今まであまりクラシックを聴いたことがなかったけど、ケイコの影響を受けてクラシックを聴き始めたばかりということなのかもしれない。
ケイコはきっと自分のお気に入りの曲から、初心者にも聴きやすそうな曲を選んで渡すんだろう。

でも、まてよ。
僕がもしケイコの立場だったら、きっと自分の好みを押し付けるよりも、相手の好みに合わせるんじゃないだろうか。
例えばテツヤがロック好きなら、やっぱりロックのCDをプレゼントしたいと考えると思う。
それにもしケイコがクラシック好きだとしても、彼に聴いて欲しい曲はある程度決まっているはずだから、わざわざバレンタイン・コーナーから選ぶことはしない気がする。
となるとそうか、クラシックが好きなのはケイコじゃなくて、きっとテツヤの方だ。
ケイコはクラシックが好きなテツヤのために、クラシックのCDをプレゼントしようと思った。
そして何を買ったらいいかわからないまま、とりあえずCDショップのクラシックコーナーにやって来る。
そこでふと目に留まったバレンタイン・コーナーに何が置いてあればいいのか――

最終的に僕は、最近各メーカーから発売されている、高音質CDのシリーズから選ぶことにしました。
高音質CDとは、従来のCDに使われている素材や製造過程を見直し、今まで以上に原音に忠実な再生を可能にした、新しい技術を使ったCDです。
複数のメーカーが同様の技術を開発しており、各メーカーによって「SMH-CD」「HQ-CD」「Blue Spec CD」などという名称が付けられています。
高音質を謳ったCDには、10年ほど前から発売されているSA-CD(スーパーオーディオCD)というものもあるのですが、SA-CDが専用の再生装置で聴かないと効果が出ないのに対して、今回の高音質CDは特別な再生装置を必要とせず、普通のCDプレーヤーで高音質を実感できます。
また各メーカーの高音質CDは大体1枚2,500円前後で、クラシックファンからすると「ほう、うちのCDプレーヤーでいい音で聴けるんだったら、ちょっと高いけど買ってみてもいいな」と思わせる絶妙な価格設定になっているようです。

ただしそうは言っても、1,000円前後で全く同じ演奏が買えるのに、音質が良くなったとは言え、その2倍以上の値段を払うのはちょっと抵抗があるという人は、たくさんいると思います。
それに高音質CDを買う人は、その演奏自体は既にCDとして持っていて、聴き比べのために買い直すというパターンも多いんじゃないかと思っています。
気にはなっているんだけど、いまいち自分で買う踏ん切りがつかない高音質CD。
だからこそ誰かからプレゼントされたら、きっと嬉しいに違いありません。
彼女にしても、チョコと一緒に渡すプレゼントとして、ギリギリ買えそうな値段です。
よし、今年のバレンタイン・コーナーはこれで行こう。
僕は高音質CDの中でも人気の名盤10タイトルを選び、簡単なPOPを作ってバレンタイン・コーナーを完成させました。

結局、2月14日までにバレンタイン・コーナーからCDが売れることはありませんでした。
結果だけを見ると、いつもの年と同じだったということなのかもしれません。
でも僕は妙にスッキリした気分でした。
強引な妄想かもしれませんが、僕の頭の中のケイコとテツヤにとっては、確かに意味のあるコーナーだったからです。
ただケイコがうちの店には来てくれなかっただけで……。

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