今回はCD業界全体のお話です。
CDの生産枚数や売り上げは年々下がり続けていて、逆にインターネットからのダウンロードや携帯電話の着うたなどの有料音楽配信が増加しているというニュースは、お聞きになったことがあると思います。
実際、パソコンや携帯電話でヒット曲をダウンロードしたことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
クラシックというジャンル自体は、CD業界の中では比較的音楽配信の影響が少ないような気がしますが、もちろん全く無関係ではありません。
店頭でお目当ての曲が見つからなかったお客様が「あとでダウンロードすればいいか」とつぶやいているのを、何度か聞いたことがあります。
今すぐにCD(いわゆるパッケージ・ソフト)がなくなることはないでしょうが、全体の流れとしてはCDから配信に進んでいることは間違いないのでしょう。
ところで、僕の妻はお笑い芸人の”イケメン”狩野英孝が好きです。
その影響で僕も彼の出ているお笑い番組を見るんですが、先日あるスペシャル番組ではメインを務めるという大抜擢をされていました。
と言っても、ミュージシャンに憧れている彼を「50TA(フィフティーエー)」という名前で歌手デビューさせるというドッキリ企画を仕掛けられたのですが……。
CD制作のためのレコーディング、プロモーション、そして観客1,000人を動員してデビューライブまでやった、かなり大掛かりな企画でした。
予想をはるかに上回る狩野さんのぶっ飛んだキャラクターに2人で腹を抱えて大笑いしてしまいました。
そこで誕生した狩野さんの自作曲は、意外とキャッチーなメロディーラインを持つ佳作で、天然ボケの歌詞と相まって、テレビで見ていた人たちにかなりのインパクトを与えたようです。
ドッキリ企画なのでプロモーションもライブも全て仕込まれたウソで、もちろんCDも発売されませんでしたが、レコーディングされた5曲は番組サイトから着うたで配信され、たった2日間で10万ダウンロードを突破したとのことです。
音楽配信事情には疎いのですが、これはすごい数字なんじゃないでしょうか。
番組終了後に狩野さんのブログを見に行ってみると、何百人もの人たちが書き込みをしていました。
その書き込みの中で最も多かった意見が「ぜひCDを出して下さい!」というものでした。
中にはCD化のための署名活動をしている人もいました。
2日間でのべ10万人もの人たちが既に配信によって曲を手に入れているのに、いまだにブログや掲示板で「CDが出たら絶対買います!」という書き込みが止む様子はありません。
騙された狩野さんに同情する声も含まれているとは言え、この流れはCDショップの店員(いや、ここはスタッフ~と言うべき?)としては非常に興味深い現象でした。
もう何年も前から「時代はCDから配信へ」と言われ、現にCDの売り上げは年々減ってきていますが、若い人たちを中心にみんながCDを欲しがっているのが僕の目にはすごく新鮮に映りました。
もうひとつ、最近僕が注目している出来事があります。
以前「コピーがオリジナルを越えるとき」という記事で紹介した、ヴォーカル音源ソフト「初音ミク」を使って作られた曲を集めたCD「EXIT TUNES PRESNTS Vocarhythm feat. 初音ミク」が3/4に発売されるのです。
初音ミクとは、メロディと歌詞を入力するとかわいらしい女の子の声で歌ってくれるソフトで、自分たちの思いのままに歌わせることができる、いわば架空のアイドル歌手のような感覚で大ブレイクしました。
このアルバムには、以前に紹介した名曲「初音ミクの消失」も含めて、初音ミク界隈で有名なクリエイターたちの人気曲が集められています。
このCDを買う人がどのくらいいるのかわかりませんが、僕が注目しているのは買う側ではなくて、作り手側の感覚です。
初音ミクというヴォーカル音源ソフトが発売された昨年以来、初音ミクを使って作られたオリジナル曲は、インターネットの動画サイトで公開・再生されることで広まっていきました。
それらの音楽は、インターネットに接続すれば誰でも、しかも無料で聴くことができます。
今回はそれを有料で販売するということなのですが、インターネットという環境に最も恩恵を受けた人たちが、有料配信ではなくCDというパッケージ・ソフトを選択したという心理に非常に興味があります。
もちろん初音ミク人気によって儲けたいCDメーカーの思惑もあると思います。
しかし今回参加しているクリエイターの中には、メーカー側の意向とは無関係に、以前から自主制作盤という形でCDを作っている人もいるようです。
配信とは違い、CDという「モノ」として形に残るという点に魅力を感じているのでしょうか。
本当のところはどう思っているのか、機会があればぜひ聞いてみたいものです。
たとえこの先、データで音楽をやり取りすることが当たり前の世の中になったとしても、形ある「モノ」を手にしたいという物欲は、世の中からなくなることは絶対にないと思っています。
もちろん商売として考えたときには、その規模がどの程度になるかは大きな問題になるのですが、でもこれらの例を見る限り、配信で手軽に音楽を手に入れられるようになった今でも、作り手側も買う側もパッケージ・ソフトに大きな価値観を持っているように思います。
不況だ不況だと騒がれている中、僕はCDショップにはまだまだ新しい未来と可能性があることを見つけた気がしたのでした。