自分の「しるし」を発信する

キングコング西野さんがまた面白いことやろうとしておられますね。しるし書店。誰かが付箋を貼ったり線を引いたりした本を扱う、オンラインの古本屋だそうです。本来であれば書き込みされた本は価値が下がりますが、もしそれが有名人とか自分がよく知っている人が読んだ本だったら、その人がどんなことを考えているのかを知る手がかりになるので、むしろその「しるし」に価値があるという考え方です。面白いですねぇ。

これ、音楽家にも同じことが言えるなぁと思っていました。自分の演奏やコンサート、あるいは自分自身にどれだけ「しるし」をつけることができるのか。もちろんその「しるし」を演奏そのものでつけられるのが音楽家にとっての理想ですが、もっとパーソナルな要素があってもいいと思ってるんです。

僕がCDショップから音大に転職したきっかけのひとつは、店内で行っていた公募コンサートでした。プロアマ問わず審査なしで出演してもらっていたんですが、普段から超一流の名盤名演奏を聴いているだろうお客様が、失礼ながら超一流から比べると「そこそこ」なはずの演奏を、ニコニコしながら聴いている。これってどういうことだろうって、ずっと不思議に思っていました。そこで僕は「音楽とは人の営みである」という原点を見つけました。音大を出たての若いお姉さんが真摯に演奏している姿、アマチュアの人たちがたどたどしく演奏している姿、レベルとか関係なく、その全てが人の営みでした。僕はもっと人にフォーカスした仕事がしたいと思って転職しました。

自分が辿ってきた音楽の道のり、コンサートの企画の意図、その曲に対する思い、何でもいいんだけど、音楽家のみんながもっともっと自分の「しるし」を発信できるようになったら、もっともっと音楽への入り口が広がったり理解が深まったりするのになぁと思ってます。

音楽家もすなるブログといふものを、黒子もしてみむとてするなり

ずーっと考えてたけど、どうしても明確なビジョンが思い浮かばなかったことを、ようやく試してみようという気になりました。ブログでもはじめてみようかと思っています。

僕のスタンスは昔からずっと変わってなくて、クラシックという山の頂上を目指すことよりも、すそ野を広げたいと思ってる人です。上よりも下、表よりも裏。頂上を目指すのは、その道の歩き方を知っている人に任せればいい。そのかわり僕は、すそ野でクラシック文化を広げていくサポートがしたい。いまだに有言不実行のままなのが恥ずかしいですが、ずっと思っていることです。

今から10年ほど前、僕がCDショップで働いてるときに、あるコラムサイトでクラシックコラムを連載していました。毎週1本、2年間休まず続けて100回を超える連載になりました。そこではクラシックに詳しい人ではなく、あまりになじみがない人たちに読んでもらうことを意識しました。そして音楽そのものの説明ではなく、音楽を取り巻く「人」にフォーカスすることを心がけました。人が興味を持つのは「人」だろうと思っているからです。その試みの成果はある程度あったという手応えはありました。でも多分これが完成形ではない、何かが足りないという思いもありました。例えば、このコラムをまとめて1冊の本にしたとして、その本を誰が手にとってくれるだろうと考えたとき、クラシックになじみがない人が積極的に読んでくれるというイメージがどうしてもできなかったからです。

CDショップを辞めて、僕が若い演奏家の人たちと関わるようになってから、ひとりの演奏家を好きになるという道筋にはどんなものがあるんだろう、というのをよく考えます。もちろん誰が聴いてもめちゃくちゃ上手い!とかいうのは演奏家の理想として当然あるとしても、もっと色んなパターンがあってもいいんだろうなと思うんです。

そのひとつの可能性を模索したのが、自分のホームページでやっていたインタビューシリーズです。出発点は「現状でどうせ友人知人にしかチケットが売れないんだったら、それを嘆くんじゃなくて擬似的に友人知人を作ってしまえばいい」というもので、ロックバンドの音楽雑誌みたいに、インタビューからその人そのものに興味を持ってもらい、そこから音楽を好きになってもらうという方法論です。理屈としては間違っていないはずだと今でも思ってるんですが、特に大きな成果があったわけでもなく、自分のサイトの力不足が一番の原因にしろ、でもこれはまだ完成形ではないんだろうなという思いもありました。

僕が関わる演奏家には機会があるごとに「コンサートのMCは単なる解説じゃなくて、一度自分の感情のフィルターを通して話した方がいい、他に変わりがいる存在から抜け出して、自分自身を好きになってもらわないといけない」と言ってきました。で、タイトルの一文に戻るわけですが、じゃあそれを僕自身で試してみたらどうなるだろう、という興味がわいてきたのです。だからこの思いを忘れないうちに書き留めてます。

率直に言って、僕がどれだけのウリを持っていて、どれだけ他の人と違うことをしているかというのは、自分ではわからないものです。でもこの数年だけでも色々なことを体験させてもらって、ようやく僕にも何かを語れるくらいの経験値は溜まってきたのかな、と思えるようにもなってきました。そしてようやくこれだと思える明確なビジョンも見えてきました。クラシック曲の話なら、レコード愛好家のブログやオーケストラの団員のブログでも読めるかもしれないけど、音楽を影で支える人という、ちょっと変わったフィルターを通すことで、「人」に興味を持った新しい人たちに音楽の入り口を示せるかもしれない。そんなことを思ってます。

とりあえず今日は決意表明だけ。

2015-02-15 朴守賢 インタビュー 未公開2/2

  • 「暁闇の宴」の難易度

――課題曲Vは難曲というイメージがありますが、朴さんの曲もそうですか?

「今回の課題曲に関して言うと、技術的にも普通に難しいですよ(笑)。まあいわゆる現代曲の部類に入るんですけど、マーチに慣れ親しんでたり、例えば映画音楽ライクな曲とかに慣れ親しんでる方からすると『なんじゃこりゃ?』ってなると思う。でも多分そういう人たちは、毎年の課題曲Vに対してそう思ってるはずなんですよ。『課題曲Vはよくわからん』と。そういう意味では、僕もそこに数えられるような作品ではあると思います。でも、実はそんなに難しくないんですよね。よくよく見れば、整理はしやすいと僕は思ってるんです。そんなに奇抜なこともしてないし、例えば特殊奏法が満載とかそういうわけじゃないし、よくわからない打楽器を使っているわけでもない」

――「これは高校生に理解できるのかな?」と思って書いたりするんですか?

「課題曲だということを半分は意識したんで、そういうイメージもしたのはしました。多少ですけど。でも、それに引っ張られはしなかったです。引っ張られると作品自体が萎縮してしまうので」

――なるほど

「3年前、クラリネット協会の作品コンクールに出した曲があるんです(クラリネット・ソロのための「Yの肖像」。この曲で第3位入賞)。僕はクラリネット吹きだから結構自信があって、解説で豪語したんです。『自分がクラリネットをやっているからこそ、しばしば作曲家に見受けられる無理な運指とか変な跳躍とかがなく、楽器の機能性を存分に生かした曲です』と。なのですけど、公開審査だったので審査員の作曲家やクラリネット奏者が壇上で色々話しをしておられるのを聞いていると、むしろ奏者としては、今までにない高いハードルに出くわすと燃えると言われたんです。それを練習して練習してこなして、クラリネットというものの技術や曲がさらに上がっていくんだと。そう言われて、ああ!と思ったんです。それは僕の中で結構ガツンときたんですよ。それまであんまり思ったことがなかったので。今から思えば、僕はクラリネットをなまじ知っているがために、自分で安全な枠をくくってしまっていたと思うんですね。それは本当に、トンカチで殴られたような衝撃でした。やっぱりちゃんと音楽に取り組んでる人は、むしろ音楽のそういう発展を望むんだなと思って、それはすごく勉強になった」

――すごく貴重なお話ですね

「今回の課題曲も、学生とかを想像はしたけど、だからと言ってそこにアジャストさせるんじゃなくて、彼らがここならトライできるだろうという、頑張ったら飛び越えられるハードルを用意したつもりです」

――朴さんは以前から「今よりも半歩先を歩きたい」っていう話をされてましたもんね

「そうそう。でも今や日本の中高生は世界レベルですから、何でも吹けますからね。だから全然大丈夫だと思うんですけどね。ましてひと夏かけるわけですから」

――最近のコンクール事情には詳しくないのですが、課題曲Vを選ぶ団体は少ないんですか?

「まず、課題曲Vは中学校は選択できません。これは15禁なんで」

――15禁(笑)

「R-15指定なので(笑)。比較的、腕に自信のある学校が選ぶことが多いみたいですね。まあVに関しては、『毎年Vをやります』みたいな”Vファン”の楽団も多いです」

――そうした団体の充実した演奏を聴くことができれば、どれだけ取り上げられるかという数にはあまり関心がないですか?やっぱりたくさんやってほしいですか?

「いやいや、それはやっぱりやってほしいですよ。できるだけたくさんやっていただけると大変嬉しいです」

――来年はきっと、色んな「暁闇の宴」に会うために全国各地を飛び回ってることでしょうね (了)

朴 守賢(パク・スヒョン)

1980年2月、大阪生まれ。
大阪音楽大学音楽学部作曲学科作曲専攻出身。

吹奏楽、管弦楽、室内楽、民族楽器、合唱、歌曲、朗読音楽、等の作曲・編曲
TVドラマ、CM、映画、劇音楽等の劇伴音楽制作
クラリネット、リコーダー、雲南の横笛「巴烏」(Bawu)等の演奏
指揮、音楽指導
音楽を通した世界各地での芸術国際交流
等で活動中。

2015-02-15 朴守賢 インタビュー 未公開1/2

2014年7月13日、今年の吹奏楽コンクールの課題曲V「暁闇(あかつきやみ)の宴」の作曲者、朴守賢さんのインタビューを公開しました。まだ音源も楽譜も発売前だったために楽曲に関する内容は書けなかったのですが、2月から販売が始まりましたので、その時の未公開インタビューを掲載いたします。各団体とも、これから課題曲選びが本格化してくると思いますので、ぜひ「暁闇の宴」の世界への入り口として参考にしてしていただければと思います。

  • 暁闇の世界観

――初めて朝日作曲賞の本選に残ってから11年、色々な経験を積んでこられたんじゃないですか

「僕は病気で音大を2年間休学してる時期があったんです。生活も大変な状況で、僕の人生の中でものすごく苦しい時期だった。でも、自分の中で不思議と光はずっとあって。それで、その年に苦しい時にもがきながら書いた曲が、初めてアジア音楽祭という国際舞台にノミネートされて、東京佼成ウインドオーケストラで演奏されたんですよ。それから、その年に初めて出した朝日作曲賞で本選に行って、同じくその年に初めてテレビドラマの仕事をさせてもらえた。確かにその時は暗闇があったけど、でも絶対に諦めずに光を失わずに追い求めていた。だからそういう意味では全然心配してなかったんですよ。光があったから。苦しみながらやってるうちに、バーンと開いたというのはありましたね」

――光を信じて追っていたんですね

「昨年も、公私の私はものすごく幸せでしたけど、やっぱり今までにない悩みを抱えたという点ではすごい闇の中にいて、以前と同じような感じでした。しかも今回は、他の人と共有しようにもしづらい闇で、どう言ったらいいのか……がんじがらめで、ちょっと変なところにはまり込んだ感じの精神状態でした。でも、やっぱり光はあって。そういう意味ではやっぱり心配はしてなかったんです。いつもそうなんですけど」

――その「光がある」というのはどういう状態なんですか?

「それがね、小さい時から持っている世界観なんですよ。ずっと広がっている世界があるんですけど、決して明るくないんです。でも、お先真っ暗かと言ったらそうじゃなくて。むしろ夜明けなんですよ」

――夜明け、ですか

「これから光が訪れるような闇。結構ずっとあるんですよ。20代の苦しかった時もあったし、今もあった。それが僕にとっては、ものすごく美しいわけです」

――その夜明け前の状態が?

「そう。今回の課題曲のタイトル『暁闇の宴』の、暁闇(あかつきやみ)というのは、まさにそこなんですよ。これから朝日が昇り始める時の闇。薄暗いけど、でもどんどん明るい色がグラデーションになって闇に変化を与えていく」

――課題曲のタイトルとしてつける前から、そういう世界があったんですね

「ありました。一昨年、コンテンポラリーダンスとコラボした作品発表があったんですけど、その時にコラボした舞踊家のお知り合いの方が、僕の演奏と作品を聴いて『暁闇』と表現してくださったんです。暁闇という言葉は和歌とかにも出てくるみたいなんですが、その時に僕も知りました」

――その作品発表には「暁闇」というキーワードは出てこないんですよね?

「ないです。僕はオープニングで巴烏(バーウー。中国雲南省を中心に演奏される横笛)の即興演奏をしたんです。それと自分の作品も出したんです。それを聴いた舞踏家のお知り合いの方から『暁闇』という言葉が出てきた。それが僕の音楽にぴったりだと言われたんです」

――そうなんですね

「自分が持っている世界観にぴったりで、僕もすごく気に入っていたんです。いつかどこかで使おうと思ってずっと温めていて、今回使うに至りました。本当はもっと静かな感じで、もう少し神妙な感じのイメージはあったんですけど、今回の曲は結構激しいところもあるので、曲を書いたあとでタイトルを考える時に、整合性を持たせたるために『宴』という言葉をつけました」

「『暁闇の宴』の難易度」につづく>

朴 守賢(パク・スヒョン)

1980年2月、大阪生まれ。
大阪音楽大学音楽学部作曲学科作曲専攻出身。

吹奏楽、管弦楽、室内楽、民族楽器、合唱、歌曲、朗読音楽、等の作曲・編曲
TVドラマ、CM、映画、劇音楽等の劇伴音楽制作
クラリネット、リコーダー、雲南の横笛「巴烏」(Bawu)等の演奏
指揮、音楽指導
音楽を通した世界各地での芸術国際交流
等で活動中。

2014-07-13 朴守賢 インタビュー 6/8

  • 吹奏楽への思い

――朴さんはしばらく、意識的に吹奏楽から少し距離を置いていたという話がありましたけど、どういうところが近づけないと感じていたんですか?

「今の僕は、僕が問題だと感じていることも、存在として理解はしています。つまり認めているし、必要だとも思っているし、いい面ももちろんある。ただ、これもバランスの問題なんです。非常にバランスが悪い。まず今の吹奏楽界はアマチュアを中心に回っていて、多くの団体はコンクールでいい賞を取りたい。もちろん、賞の前にいい音楽をして、結果的にいい賞があるんだよみたいな論調も最近はよく見受けられるし、『響宴』や『バンド維新』みたいに、意欲的でいろんな可能性を開拓している運動もありますが、それでもコンクール市場が中心だと思うんです。コンクールのおかげで日本の吹奏楽が大きく発展してきた側面もあると思うので、良くも悪くもですけど。そのためコンクールでいい賞が取れそうな音楽が持てはやされますよね。そうなると、いわゆる勝ちパターンがあるから、その勝ちパターンにはまる曲が好まれる、好まれるから作曲家はそういう曲を書く、売れるから出版社はそういう曲を売る、そういう曲が欲しいから先生は買う。ひとつのビジネスサイクルができあがっているんです。それでここ10年は大きく発展してきていると思います」

――ここ10年のことなんですね

「吹奏楽界でいわゆる『邦人作曲家』と言われる人達や、出版社の数が以前より増えたのはそうだと思います。ここ10年のことですよ。学生たちはそういう曲をたくさん演奏するわけですよね。そうすると、毎年違う曲をやっているように見えて、音楽の構造だけを抜き出せば全然変わりがなかったりとか、あるいはストーリーがあって、そこに食いつくみたいな。だからミュージカルみたいな曲が多いですよ。物語に乗ってじゃないと音楽が歌えない、音楽を表現できないというのが非常に多くなっている。そういう音楽もいいけど、もちろん音楽はそれだけじゃないじゃないですか。吹奏楽も音楽なので。でも主流は本当にそんな感じです」

――でもこれから、朴さん自身がそういう世界に入るわけじゃないですか。オーダーがあって書くわけだから、むしろそういう曲ばっかりになる可能性が、忙しくなればなるほどあると思うんです

「あります、あります。そこはだから、見失ってはいけないなとは思います」

――それはそれでアリだけど、バランスはちゃんと見ておかないと、ということですね

「そうです。例えば僕は関西現代音楽交流協会とか、純粋に音楽を追求した発表の場を継続的に持っていますけど、そういう場がかなり大事になってくると思います。そういう傾向になればなるほど。これから色々と吹奏楽の曲を書かせていただくようになって、今の流行りのスタイルで書くことを要求されても、僕はその中できっちり勝負したいし、そのオーダーの中でちゃんと、僕が思うあるべき理想の音楽というのを体現したいし、子供たちにも自信を持って演奏してもらえるような、聴いてもらう人にちゃんと聴いてもらえるようなものに挑戦していきたいし、そこに向かいたいです。でもそれが曲がってしまって、曲を書くときに、こういうスタイルで書いたら売れるなとかいう思考が、あってもいいけど、それが音楽より先行してしまったらもう終わると思います。すぐに終わると思うんです」

――終わるというのはどういうことですか?自分の中で終わるということ?

「そうです。他の作家の方々のことではないですよ、みんなそれぞれスタイルや哲学がありますから。僕という人間としては終わってしまうということです。僕の思っている目的ではなくなってしまっているから。でも売れるということは、多くの人が好んでいるということだから、その分多くの人が、ある部分ではハッピーになっているということですよね。それはとてもいいことですし、だからそのような側面をリスペクトした上で、バランスを大切にしながら自分の役割を全うしたいと思いますね。その結果たくさんの方々に取り上げてもらって、吹奏楽や音楽の新たな魅力や側面を共有できたら嬉しいです」

――朴さんの役割というか、吹奏楽界での立ち位置はどういうところだと考えているんですか?

「僕の基本的な立ち位置としては、音楽芸術としての吹奏楽を開拓しようとしています。だからコンクールを前提とした尺とか内容とか編成というのを、しばしば無視しますね。もちろんそういうオーダーがあって書くときもあるんですよ。あるんですけど、前提としてはそうです。でもさっきも言ったように、今はそれしかやらないというスタンスじゃないので、できるだけ色んな形で貢献したいと思っています。例えば難易度が易しいイコール内容も薄いという曲が結構多くて、初心者でも取り組めるような、難易度がそんなに高くないけども、でも音楽作品としてすごく内容のある、取り組みがいのある曲というのが意外と少ない。例えばそういう曲を書いたりとか。吹奏楽の教育的側面は絶対に無視はできない。それは全然否定しているわけでもなく、むしろ吹奏楽が持っている魅力のひとつでもあると思うんです。僕が今思っているのは、魅力の部分をより広げて、より多様化したいというか、より充実させたいんです」

――今主流になっている音楽はその役割としてあって、朴さんはその流れがカバーしきれていない部分の魅力をもっと広げていきたいということですね。音楽芸術的な吹奏楽作品というのは、これまでにも例えばシェーンベルクとかヒンデミットとか、ありますよね。いわゆる吹奏楽の作曲家ではない作家の作品が。でもそれだけと、巨大なアマチュア市場にぽこっと単発で入っただけのことで……

「なかなかウェーブは起こりにくいですよね」

――朴さんは、それを中に入ってやろうとしているということなんですね

「そうです。今までは外から投石していたようなイメージです。今やありがたくも、がっつり中に入り込めるわけですから」

――まさにそうですよね。これから課題曲の作曲家としてのキャリアがいよいよ始まりますね

「今度、中学校で職業体験学習の一環で講演をするんですけど、子供たちに自信を持ってこう言いますね。諦めるなと。信じて、感謝して、努力していけば実ると。本当に自信を持って言えます。自信を持って言いたい、できるだけ伝えていきたいです」

「暁闇の世界観」につづく>

朴 守賢(パク・スヒョン)

1980年2月、大阪生まれ。
大阪音楽大学音楽学部作曲学科作曲専攻出身。

吹奏楽、管弦楽、室内楽、民族楽器、合唱、歌曲、朗読音楽、等の作曲・編曲
TVドラマ、CM、映画、劇音楽等の劇伴音楽制作
クラリネット、リコーダー、雲南の横笛「巴烏」(Bawu)等の演奏
指揮、音楽指導
音楽を通した世界各地での芸術国際交流
等で活動中。