2010-02-23 アーティストに言ってはいけない言葉

1ヶ月ほど前に見た、デーモン小暮閣下がブログに書いていた文章が、ずっと頭の中にひっかかっている。
アーティストに言ってはいけない言葉、というものである。
それは次のような言葉だという。

「残念ながら今回は観られない(聴けない・行けない)です」
「観られません(聴けません・行けません)でした」
「観ない(聴かない・行かない)と思います」

少し長くなるが、デーモン閣下の考えを引用させてもらう。

時間や金銭の事情があって「本当はとても観たかった(接したかった)」のにそれが叶わず、そんな気持ちだけでも伝えようと、ほとんどの人は悪気なくむしろ応援の気持ちでそういう言葉をアーティスト(またはエンターテイナー)たちに発しているのだと思う。でも、そんなことは分かっていても、実はその類の言葉を聞いてほとんどのアーティスト(またはエンターテイナー)たちは嬉しくないのである。… というよりもがっかりすることが多いのだ。これは知っておくとためになると思う。

なぜか?「心血を注いで」生み出した作品はオン・タイムであろうが無かろうが、観て(聴いて・接して)もらってなんぼ、だからである。そこにその時の作者(演者)の魂(生きていた証し)が存在するからである。

もう少し簡単な言い方をすると「あんなに精魂こめて作った(演った)のに、観て(接して)もらえないんだ…どんな理由があれ」ということだ。

色んな人に色んな事情があって、意に反して観られない(聴けない・行けない)のは事実なのだから仕方がないとして、吾輩が言いたいのは、そのことはその人の心の中に納めてもらい、作者(演者)にはわざわざ伝えないほうが良いよ、ということなのである。


(デーモン閣下の地獄のWEB ROCK: Jan.03.DC12:ためになることを教えてあげよう。)http://demon-kakka.laff.jp/blog/2010/01/jan03dc12-74b4.html

僕は今まで、例えば案内してもらったコンサートに行けないときには、素直に「行けません」と伝えていた。
デーモン閣下によると、それが応援の気持ちと分かっていてもなお、ほとんどのアーティストはがっかりするという。
その作り手側の気持ちはわかるような気もするし、僕がアーティストだったら別にそこまでがっかりはしないのかなぁとも思う。
いや、でも例えば、この連載について知り合いから「なかなか時間がなくて、まだ読んだことないんだよね」なんて言われたら、がっかりはしないまでも、残念というか寂しくは思うかな?
うーん、どうだろう。

これが逆のパターンだったら、よくわかる。
知人のコンサートがあるときに、「行きます」と伝える、または終演後に楽屋に会いに行ったり、後から感想をメールしたりすると、出演者はすごく喜んでくれる。
それは、町の小さな発表会だろうが、ショッピングセンターでのロビーコンサートだろうが、2,000人が集まるコンサートだろうが、あるいは有料無料にかかわらず、同じように喜んでくれる。
表現者にとっては、自分が心血注いで作った作品を、自分のために時間を割いて見て(聴いて)くれる人がいるということが一番大事で、嬉しいことなのだ。
その意味で、デーモン閣下の気持ちはよく理解できる。

デーモン閣下のブログを読んで以降、知り合いの音楽家2人から、それぞれのコンサートの案内メールをもらった。
偶然2人とも同じ日に開催されるコンサートで、しかも僕は既に別の予定を入れていて、どちらにも行くことができなかった。
僕はデーモン閣下の言葉を思い出しながら「出演者にとってはどっちがいいんだろう?」としばらく葛藤した挙句、これまで通り「残念ながら行けません」と返事をした。
2人から送られてきた案内は、どちらも一斉送信されたメールだったので、恐らく返事を返さなくても失礼ではなかったと思うけど、応援の気持ちを込めて、あえて返信した。
これも、がっかりされたんだろうか。
それに対する返事があったわけではないので、実際のところどう思われたのかはわからない。
聞こうと思えば本人に聞けるんだろうけど、そういう気にもなれず、いまだに悶々とした気分が抜けないままだ。

自分の作品を見てもらえると、嬉しい。
これは、わかる。
見てもらえなかったら、がっかりする。
全てのケースがそうとは言えなくても、まあこれもわかる。
じゃあ「本当は見たいけど、残念ながら見られない」と言われるのは?
どんな気分がするのか、僕にはわからない。
伝えられてがっかりするくらいなら、伝えてくれない方がマシ?
やっぱり、わからない。

この問題は、僕の中ではまだ決着がつけられないでいる。
みなさんはどう思うだろうか。