2008-12-05 未来を創るオーケストラ

今年の2月23日に開催された「今、オーケストラが熱い!大阪編」という講演会を聞きに行ってきました。
大阪フィル、関西フィル、大阪シンフォニカー、大阪センチュリーという大阪の4大オーケストラの事務局の方が壇上に集い、ここには書けないような生々しい話や具体的な金額などを交えて、それぞれが抱える苦しい財政事情が赤裸々に語られるなど、かなり深いところまで突っ込んだ内容の濃いイベントでした。

講演会の前半には、各オーケストラが順番に活動内容や方針などを発表されたのですが、それぞれに特色のある方向性を見つけることができました。
関西クラシック界の雄として芸術的高みを目指し続けることに誇りを持つ大阪フィルハーモニー交響楽団、「ヒューマニズム」をキーワードに人と人との絆を大切なテーマとして掲げる関西フィルハーモニー管弦楽団、演奏会前後に曲目解説やコンサート評をサイトに公開し総合的な楽しみを提案する大阪シンフォニカー交響楽団など、スタンスの違いが明確にわかったのは大きな収穫でした。

この講演会が行なわれた2月というのは、橋下・新大阪府知事が就任した直後でした。
橋下知事は就任後すぐに、大阪センチュリー交響楽団の母体である、大阪府文化振興財団への補助金をゼロベースで見直す(廃止する)と発表し、クラシック界のみならず世間一般でも話題になっていました。
民間企業から多くの支援を受けている3つのオーケストラに対して、大阪センチュリー交響楽団は運営費の多くが府の補助金によってまかなわれているオーケストラです。
補助金がカットされるということは、オーケストラの存続自体が危ぶまれる状態になるということです。

もっともこの時はまだ、本当に補助金を廃止できるのかという様子見の雰囲気もあり、後に反対の署名運動をしなければならないことになるとは思っていなかったので、さほど深刻なムードではありませんでした。
そんな中で大阪センチュリー交響楽団も現状の報告をされたのですが、「子供、青少年」をキーワードに掲げ、補助金(=府民の税金)の地域・社会への還元の意識、そしてクラシックに親しむ子供たちの育成と未来への意識がどのオーケストラより高いことに、僕は強い感銘を受けました。

大阪センチュリーへの補助金問題は、特に関西ではテレビや新聞などで何度も報じられましたが、僕が見聞きする限りでは、このオーケストラが持つ「子供、青少年」への思いをとらえた報道はほとんどなく、歯がゆい思いをしていました。
単純に演奏会のことだけを考えたら、ザ・シンフォニーホールという同じホールを拠点にしているオーケストラが大阪に4つもあるのは、正直僕は多すぎると思っています。
2年前に関西経済界のトップが「大阪のオーケストラを1つに統合したらどうか」という発言をして揺れた時も、ある部分では納得できると思っていたのです。
大阪センチュリーは他のオーケストラに比べると府からの補助金が多く、それに対して年間公演数や事業収入が少ないというデータを知っていたため、「府のお抱えオーケストラという立場にあぐらをかいているんじゃないか」というイメージがあったのも、統合発言に納得できた要因のひとつでした。

でもこの講演会でわかったのは、大阪センチュリーの青少年の育成に対するこだわりと、その幅広い活動内容でした。
子供たちに実際に楽器に触れてもらう体感コンサート、大阪センチュリーの選抜メンバーによる府立病院での出張コンサート、地元の合唱団や吹奏楽団とも共演する毎夏恒例の野外音楽堂での無料コンサート、府内の支援学校の生徒を招待して国際障害者交流センターで行なわれるコンサート。
さらに小学1年生から29歳までを対象とした専属のユースオーケストラ運営や、大学生にオーケストラ事務局の仕事を体験してもらうインターンシップなど、一般のファンの目には見えにくいところで、コンサートホールでの演奏会とは別にたくさんの活動をしているのです。

美しい音楽を聴くことで子供たちの感受性が豊かになり、音楽が好きになるのはもちろんですが、多感な時期に楽器に触れたり、オーケストラに参加したりするなどの貴重な体験をすることは、思いやりや協調性といった大切な心が育まれる大きなきっかけになります。
こうした利益になりにくい、目先のことではない様々な活動ができるのも、自治体からの大きなバックアップがあればこそ可能なんだとわかったのです。

後に大阪センチュリーに所属する友人から、補助金廃止反対の署名をお願いされたとき、僕は快く署名しました。
それは、このオーケストラが上手いからとか、独自の伝統と個性があるオーケストラがなくなるからとか、優秀な楽団員が路頭に迷うからとか、一般的に思われているような理由ではありません。
このオーケストラの在り方に、子供たちの未来がかかっていると思ったからです。

ひとくちに青少年の育成と言っても、何をもって成功とするのかはっきりと成果をはかることはできません。
しかも自分たちの次の世代に成就する(かもしれない)長期的な活動であればなおさら、営利を求める民間企業にはなかなかできないでしょう。
大阪府は、財政非常事態宣言が出されるほどお金がないのは知っています。
でも、自分の子供である国民や府民・市民にお金と愛情をかけてあげるのは、民間ではなくまずは親である国や自治体であるべきだと思います。

僕はこの文章で、政治に対して物申すつもりはありません。
ただ純粋にひとりのクラシックファンとして、大阪府は青少年の未来に目を向けた素晴らしいオーケストラを持っていることを知って欲しいし、そしてこれからもずっと続いていって欲しいと願っているのです。

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