2009-04-11 夢の続き(1)~転職します

「クラシック・サポーターになりたい!」の連載を始めたのが昨年の4月25日。
来週でちょうど1年間続いたことになります。
通勤電車でアイデアを練り自宅で原稿を書き、時には昼休みにも推敲を重ね、妻に読んでもらってさらに手直しして金曜深夜に更新するというサイクルを、よくもまあ1年間も続けられたなぁというのが率直な感想です。
いや、実際には理想どおりにはならず、深夜0時の更新直前まで仕上がらなかったことも何度かあり、時間との戦いの中で眠い目をこすりながら原稿をチェックしてくれた妻には随分迷惑をかけました。
そんなこんなでちょうど1周年だからというわけではないのですが、CDショップの店員という立場で書いてきた今の形の連載は、来週でひとまず終了とさせていただきます。

私事で恐縮ですが5月に転職することになりました。
新しい職場は、大阪にある小さな音楽マネジメント会社です。
現時点では細かい打ち合わせはまだこれからなのですが、音大を卒業した若い演奏家などを、各地のコンサートやイベントなどに紹介・派遣するのが主な仕事になりそうです。
この転職は、CDショップの店員がイヤになったからとか、たまたま見つけたいい仕事だったからというわけではなく、実は連載を始めた1年前から考えていた道でした。
そこで今回から2回に分けて、転職に至った心情を書いてみようと思います。

僕がこの連載を始める直前まで働いていた梅田のCDショップには、店内にグランドピアノを常設した小さなステージがあり、そこで週に2~3回ぐらいのペースでミニコンサートを開催していました。
平日はプロアマ問わず一般公募のコンサート、週末はCDを発売したアーティストなどのプロモーション・ライブ。
平日のコンサートは、事前の日程交渉や宣伝告知、当日の司会進行、照明や音響の操作、終了後のライブレポートまで全て店のスタッフで運営していました。
こうしたコンサートに関わることは、僕にとってはCDを売っている以上に楽しく感じられました。

CDを販売することもコンサートに関わることも、音楽が好きな人をサポートするという点では同じですが、コンサートはお客様の喜ぶ姿を直接目にすることができるのが大きな魅力でした。
そして、ややもすれば演奏家の存在が薄れてしまうCDと違い、コンサートでは僕たちと同じ時代に生きる演奏家を直接感じることができ、その活動を直接サポートすることができるという部分にも喜びを感じていました。
僕自身がもともと演奏活動をしていたということも、無関係ではないのかもしれません。
いつしか僕は、ゆくゆくはCDというモノを通さずに、演奏家とお客様とを直接繋ぐことができる仕事がしたいと思うようになっていました。

梅田の店で一般公募のコンサートを始めてから、僕はずっと不思議に思っていたことがあります。
ステージでたどたどしく弾くアマチュアピアニストや、趣味で集まっているジャズバンドの演奏を、お客様はとても楽しそうに聴いてくれるのはなぜだろう、ということです。
店内のコンサートを聴きに来てくださるお客様は、きっと普段はCDで世界の超一流の演奏を聴いていて、耳が肥えている人も多いはずです。
音大を出たばかりの「ちょっと上手い」程度の無名の演奏家なんて、CDで音楽を鑑賞するときにはきっと見向きもされないんだろうと思うのです。
でも、普段聴いているレベルには遠く及ばなくても、生演奏だと楽しく聴ける。
なぜだろう、この差はどこから来るんだろうと、ずっと考えていました。

その答えは、ある日僕の頭の中にぽんと浮かんできました。
それは「そこに人がいるから」というものでした。
ただ音楽だけを切り取ったならば、その判断基準は上手いか下手か、あるいは好きか嫌いかということになるのでしょう。
でも演奏している人を目の前に意識したとき、きっと観客は音楽を通じて「人」を感じているのだろうと思ったのです。
それは上手い下手だけでは量れない、もっと曖昧でもっと熱くてもっとダイレクトな何か。
そうか、僕が興味を持っていたことは、音楽という名の「人の営み」だったんだ。
本当に僕がやらなきゃいけない仕事は、音楽の両側にいる人と人とを繋ぐ仕事なんだ。
そう気づいたのです。

しかしそう気づいたからと言って、決して僕がCDショップの仕事をイヤになったわけではありません。
僕が真のクラシック・サポーターになるための、CDショップの先にあるひとつ上のステージがはっきりと姿を現したということなのです。
それから1年、僕が音楽を通じて社会に貢献するための「夢の続き」を探し続け、ついにその条件に合った仕事と出会うことができたのでした。

次回はCDショップよりもう少し広いクラシック全体の視点から、僕にとっての転職の意義をお話してみようと思います。