2008-11-28 プロの条件

僕は昔から職人や専門家、プロといった言葉に憧れを持っています。
今はCDショップで働いているので僕も立場上はプロということになるのでしょうが、まだまだ目指す姿とは程遠い場所にいます。
僕が思うプロとは、例えばクラシックCDショップの店員だったらクラシックに関するあらゆる情報が頭の中に入っていて、お客様との会話の中でその情報が瞬時に取り出せる人というイメージです。
それに対して僕は、自分の記憶力や知識量にまだまだ自信が持てなくて、先輩スタッフならすぐにわかりそうなことを、いちいち資料で調べている自分がイヤになります。

僕が楽譜専門店で働いていた頃は、まだインターネットが爆発的に普及する直前でした。
ある楽譜がどこから出版されているのかを確認するために、10巻以上もある英語の分厚い総合カタログや、世界中の各出版社から送られてくるカタログをあれこれと広げながら調べたものです。
自分自身の知識量はともかく、そうした特別な資料を使うこと自体がプロとしての役割でもあったと言えます。

でも今はインターネットの発達のおかげで、かつては専門店でしかわからなかったような情報が、誰にでも簡単に手に入るようになりました。
CDショップの立場からしても、難しいお問い合わせなどがあると、とりあえずヤフーやグーグルなど一般の検索サイトを使って調べるようになっています。
昔ながらの分厚い総合カタログなどもまだまだ使いますが、国内外のインターネットショップを利用すれば同じような情報が手に入ることも多く、インターネットだけで調べものが済んでしまうこともよくあります。
調べる環境という点では、専門店と一般の家庭との垣根はうんと低くなったと言えるでしょう。

インターネットがこれだけ一般家庭に普及してくると、CDを探しに来られたお客様に対して、分厚い専門カタログを見せるならともかく、普通にインターネットで調べたサイトを見てもらうのは、ちょっと恥ずかしいものです。
それがグーグルの検索結果の画面だったりすると恥ずかしさは倍増で、「自分がインターネットで調べるのと変わらんやん?」と心の中で突っ込まれているに違いないと思ってしまいます。
プロとしてのわずかばかりのプライドで、わざとパソコンの画面を見せずに、いかにも専門の資料を調べてみましたという雰囲気をかもし出してみたりすることもあるのですが、どっちにしてもお客様が自宅で調べられることを僕が代行しているだけなので、本当にプロとして信用してもらっているのかどうか不安になることがあります。

家にいるときに、クラシック好きの妻からも「こんなCDが欲しいんだけど、出てるかどうかわかる?」と聞かれることがあります。
僕の知識ではわからないものは、やっぱりインターネットで調べてみることになります。
1枚のクラシックCDには、作曲者や曲名、カップリングされている曲、指揮者や演奏者、レコード会社と商品番号、録音年月日などなど様々な情報があります。
自分が欲しい曲を探すためには何が必要な情報なのかがわからないと、正しい答えは見つけられません。

妻もインターネットができるんだから、自分で調べればいいのにと思ったりするんですが、彼女にしてみれば、何をどうやって調べたらいいのかわからないようなのです。
インターネットによってみんなが同じ環境で検索できると言っても、みんなが自分の欲しい情報を得られるとは限らないということなのでしょう。
うちの店でも、アルバイトスタッフがパソコンの前で何分かかっても調べ切れなかったことを、僕があっさりと見つけてしまうことがあります。
僕が当然だと思っていることでも、他の人にとってはそうではない。
その知識と経験の差こそがプロなんだと言われれば、確かにそうなのかもしれません。

プロとしての理想にはまだ届かない今の僕ができることは、色々な資料を調べてその中から適切な結果や選択肢を示してあげることです。
それは、あらゆる情報が頭の中に入っているという、僕が思うプロの姿とはちょっと違うのですが、たとえ誰もが使えるインターネットであっても、その中から知識と経験でふさわしい答えを見つけ出すこともきっとプロの条件なんだろうと、今は自分に言い聞かせています。