2008-07-25 カップリングを探せ

クラシック業界には「メンチャイ」という用語があります。
メン=メンデルスゾーン、チャイ=チャイコフスキーのことで、「メンチャイ」とはメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が1枚に納まったCDやレコードのことを指します。
どちらも古今のヴァイオリン協奏曲の頂点に君臨する名曲で、この2曲を組み合わせる録音は昔からの超定番になっています。
この他にも「ベートーヴェンの3大ピアノソナタ ”悲愴”・”月光”・”熱情”」とか「グリーグとシューマンのピアノ協奏曲」とか「チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番」とか「ドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲」などなど、レコード業界には定番カップリングが多数存在しています。

CDショップでは、このカップリングに関していつも悩まされます。
クラシックコーナーの場合、CDの分類は演奏者別ではなく作曲者別になっているのが普通です。
そうすると2曲以上入っているCDは、どちらの作曲家のコーナーに置いたらいいのかという問題が常に起こるのです。
2曲以上でも「ベートーヴェンの3大ピアノソナタ」のように1人の作曲家だけの場合はいいんです。
ベートーヴェンのピアノソナタのコーナーに入れておけばOKだし、ピアノソナタの中でさらに曲ごとに細かく分類してあったとしても、そのCDはとりあえずベートーヴェンのピアノソナタのコーナーにはあるので、探し出すのはさほど難しいことではありません。

2人以上の作曲家が入っている場合でも、メイン級の曲が決まっているものもあまり問題は起こりません。
例えば、ドヴォルザークのチェロ協奏曲と、チャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」という2曲が入っているCD。
これもチェロの定番カップリングとして色々なCDが出ていますが、曲の規模や知名度から言うと、ドヴォルザークの方がメインということになっています。
CDの方の表記も「ドヴォルザーク:チェロ協奏曲、他」となっていることが多いので、大きな混乱は起こらないのです。

問題は2つの曲が同等の規模を持つ、いわば”ダブル・メイン”の場合です。
例えば「メンチャイ」の場合、どちらも同じくらいに超有名な曲なので、メンデルスゾーンのコーナーに置くのか、チャイコフスキーのコーナーに置くのかを迷うことになります。
同じものを2枚仕入れてそれぞれに置くことができればいいのですが、在庫の関係で全てをそうするわけにもいきません。
結局は特別な決めごとを作るわけでもなく、人によって(その日の気分で?)対応がバラバラなまま今に至っています。
メンデルスゾーンのコーナーにあったCDが、売れて次に入荷してきた時にはチャイコフスキーのコーナーに入っている、なんてことも日常茶飯事です。
いくつかの曲には、例えばメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のコーナーに「チャイコフスキーのコーナーもご覧下さい」などの表示をしているのですが、それにも限界があります。
“ダブル・メイン”のCDは、どうしてもお客様にご迷惑をおかけしてしまうという現状です。

困るのはお客様だけではなく、CDショップの新人スタッフも同様です。
まだ慣れないうちは、メモを片手にある曲を探して右往左往している姿をよく見かけます。
最初のうちは失敗を繰り返しながら、パソコンで調べたり先輩に聞いたりして、徐々にカップリングの法則を覚えていくのです。
彼らもそのうちに慣れてくると、お客様に「サン=サーンスの『動物の謝肉祭』はどこにありますか?」と尋ねられたときに、サン=サーンスのコーナーではなくプロコフィエフのコーナーに行くようになるでしょう。
そして、不思議がるお客様の前でプロコフィエフの「ピーターと狼」のCDをさっと取り出して、「『動物の謝肉祭』と『ピーターと狼』は、オーケストラ入門用の名曲として一緒に入っていることが多いんですよ」と、にっこりしながら言えるようになれば、クラシック・サポーターに一歩近づいたことになります。