クラシック音楽界には録音芸術に対する拒絶反応が根強くあると感じています。コンサートは一期一会のものだからそもそも記録には向いていない、ましてや編集されるなんてとんでもない!という声です。そういう人たちにとって、今回僕がやろうとしてる、電子ピアノを使ってホルンとピアノを別々に録ってあとからミックスするというやり方は、邪道中の邪道でしょう。もちろん僕も、これが未来の王道になるとは思っていません。ただし、長年の慣習として何となく「これが正しい」と思われてきた常識は全て疑って、今の僕のコンディションでできること・できないことを秤にかけて、本当にふさわしい方法をゼロから検討して選んだ結果なので、その意味ではこれがベターだと思っています。
僕はレコーディングや編集は肯定派です。映画を作ったことはないですが、音楽を編集することと映画を作ることは似てるんじゃないのかなぁと思っています。映画を違和感なく楽しめて感情移入できる人なら、きっと編集された音楽だって違和感なく楽しめて感情移入してもらえるはずだと。というより生のコンサートと録音とは、お芝居と映画ぐらい違うものだと考えています。編集に対する拒絶反応には、編集されて上手に聴こえるのは演奏家の本当の姿じゃない、フェイクだというものもあります。でも僕は、上手くいかなかった本番で聞かされる音楽は、その人が思い描く音楽にとっては、そっちの方がフェイクではないかと思っています。
いや……でも本当はわかっているんです。一発で完璧に演奏できるプロの人たちにとっては、この議論は無意味だということを。僕にはそれができないので、身の丈にあったやり方で自分にとっての「リアル」を追っていきたいのです。