前回お伝えした通り、僕は4月いっぱいで転職することにしました。
新しい仕事は、大阪にある小さな音楽マネジメント会社です。
ここでは先週に引き続いて、今回の転職に込めた思いを書こうと思います。
僕はクラシックに携わるようになって以来ずっと、プロよりもアマチュア、マニアなファンよりも初心者と、クラシック山の頂上よりもすそ野にいる人たちの役に立ちたいと思っていました。
これは、それによってお金を稼げるかどうかとは関係ない僕の信条です。
でも、すそ野にいる人たちの役に立ちたいという気持ちは、ずっと持ち続けてきた割には、どこか漠然としたものでしかありませんでした。
CDショップで働くようになって色々な勉強や経験を重ねていくうちに、すそ野にいる人たちが頂上に登りやすくするための階段を作ってあげることこそが、僕のやるべき仕事だということが見えてきたのです。
演奏家自身が「気軽に聴いて下さい」と声をかけることも、クラシックをより身近なものにするひとつの方法です。
でも本当はクラシックへの階段は、演奏家自身だけではなく、クラシックに関わる全ての人たちの手で作っていかなきゃいけないものだろうと思っています。
クラシックに興味が出てきた人たちが、目の前にある段差の低い階段をトントンと登っていくうちに、いつの間にかクラシックを深く楽しめるようになっていた。
そんな環境を作ることができたら最高だなぁ。
クラシックへの階段を作っていくことは、この世界で生きて行くと決めた僕に与えられた大きな使命でもあると思っています。
クラシックに興味を持った人が、本格的な演奏会を聴くようになるまでに通るクラシックへの階段を作りたい。
それを実現するために選んだ新しい一歩が、音楽マネジメント会社への転職でした。
今回、僕が転職を決めたのには、もうひとつ理由があります。
それは、これから本格的な演奏家になろうとする人たちの手助けがしたかったということです。
毎年、全国で何千人という人達がクラシック音楽系の大学を卒業していきますが、実際に演奏家として活動できるのはほんの一握りです。
でも僕は、だからと言って受け皿として新しいオーケストラを作ったところで、さほど意味がないんじゃないかと思っています。
そうして作った新しい団体が全て世間に受け入れられるのか、需要と供給のバランスの問題があります。
それに音大の卒業生が増えれば演奏団体も増えるという、ある意味いたちごっこのような発想が本当の解決になるのかというのも疑問でした。
それよりも僕は、本当に実力がある人がちゃんと認められる環境を作ることの方が大切だと思っていました。
栄光をつかめる人は一握りでもいい。
でも、実力はあるのにチャンスに恵まれないままタイミングを逃し、そのままプロを諦めていくという状況があるのならば、それはできる限りなくしてあげたい。
僕は本気でプロになりたい若い演奏家たちのために、たくさんの演奏のチャンスを与える場所を作りたいと思っていました。
クラシックファンに対して階段を作りたいと思っているのと同じように、若い演奏家に対してもプロフェッショナルへの階段を作ってあげたいのです。
新しく勤める音楽マネジメント会社では、コンサートホールでの立派な演奏会のプロデュースというよりも、ホテルや銀行のロビーだったり、レストランや病院でのコンサートだったりなど、より生活に密着した場所での小さなコンサートに関わることが多くなるようです。
そしてそうしたコンサートに、プロとして既に成功している演奏家よりも、これからの若い演奏家を積極的に派遣・紹介していきたいという方針があるようです。
これはまさに、僕が考えている理想に近い仕事でした。
僕が関わる仕事が、クラシックへの階段作りにすぐに直結するのかどうかはまだわかりませんが、いつかたどり着きたい場所に、少しは近づいていっているんじゃないかという気はしています。
僕は来月、夢の続きを追って新しい船出をします。