2017-10-09 井阪美恵×南部由貴デュオ・リサイタル インタビュー 2/4

  • 1917年と1946年

 今回のリサイタルは、プロコフィエフの第1番のソナタを入れることが最初に決まりました。高度な技術を要求される曲だからこそ、今この年齢で弾きたいという理由もありましたが、この曲が作られた時代や国も、井阪さんにとって大切な意味を持っていました。それは、あるドキュメンタリー番組を見たことが、ひとつのきっかけになっています。

井阪「2年ぐらい前にたまたま、NHKで放送していた『新・映像の世紀』を見たんです。以前に放送された時にはなかった、新しく出てきた映像とかも使って、20世紀の100年間の歴史を見直すという番組でした。その辺りの歴史って学校の授業だと結構すっとばすじゃないですか。ささっとは習うし条約の名前とかは覚えるけれど、どういう経緯で戦争が起きて、どういう処理がされて、それが今の戦争にどう繋がってしまったかとか、学校でちゃんとやってなくって。例えば今の中東の問題も、第一次世界大戦でオスマン帝国がどうなったとか、それがどういう風に分割されたのかとか、番組を見て、そうだったんだってびっくりすることが多かったんです。

 実際、私が帰国する1年ぐらい前のザルツブルクが、シリアから来ている難民がピークの時期だったんです。みんなドイツに行きたいから、ザルツブルクを通るんです。ある日、私が講習会からザルツブルクに戻ってきたら、駅がすごいことになっていました。というのも、ドイツがいきなり国境を閉めたから、難民が溢れかえっていたんですよ。しかも国境が閉まるっていう噂も流れていたから、余計にみんな急いでやって来ていて、すごいことになっていた。駅の前には赤十字が医療テントを作っていて、地下の駐車場にはたくさんのベッドが入れられて全部難民キャンプになっていた。もちろんニュースではずっとシリアの問題とかを見ていたけれど、初めてすごく間近に見てびっくりしたし、現実的にこんなことになってるんだって思いました。

 それでも、実際に見ていると意外とみんな普通で、スマホを持ってたりするんですよ。みんなのやり取りとか表情とかを見ていたら、そこまで切羽詰まってるわけでもない。シリアは本当に危険な状態だけど、ザルツブルクにいればとりあえずは安全だし、何とかなるだろうっていう感じはあるから、そこにいる難民に悲壮感とかはあまりないんです」

 自分の中から抜け落ちていた100年間の歴史をドキュメンタリー番組で知り、番組やニュースでしか知らなかった情報を、現実に起こっているリアルな姿として実感したことで、井阪さんはこれまでの100年や、次の100年について考えるようになったといいます。

井阪「私は戦争とか紛争とかとは無縁に生きてきたけれど、これからの100年に何を選んでいくのか、何が正しいとかいう正解はないとしても、ある程度は自分でも判断できた方がいいし、抜け落ちている近代の歴史は絶対に振り返ったほうがいいと思いました。本当に知らないことがたくさんあったので。もちろん日本や他の国の文化を知る上で、何百年という昔の歴史を知ることも大事ですけれど、この身近な100年って現在の私たちにもすごく影響すると思います」

 井阪さんが20世紀の歴史について考えるようになったタイミングは、プロコフィエフのソナタを軸とした今回のリサイタルのプログラム構成にも大きく影響を与えています。

井阪「ドキュメンタリー番組を見たタイミングとかとも重なって、そういうことを考えていた時だったので、プロコフィエフのソナタは私の中ですごくタイムリーだったんです。第1番は第二次世界大戦を挟んだ1938年から46年の間に作られていて、しかもスターリン時代のソビエトで書かれている。やっぱりすごく独特な作品だと思います。

 一緒に演奏しようと思って選んだドビュッシーとフォーレのソナタが1917年の作品で、今からちょうど100年前、第一次世界大戦の頃の作品だったので、自分の中でこの組み合わせがしっくりきたんです。音楽だから形があるわけじゃないけど、この組み合わせにすることで、この100年間というくくりを形にできるんじゃないかって。とても思い入れが強いプログラムです」 <パート3「フォーレのソナタ第2番とその時代」につづく

(公財)青山財団助成公演 井阪美恵×南部由貴 デュオリサイタル
日時:2017年 10月28日(土)17:00開演(16:30開場)
http://barocksaal.com/concert_schedule/concert20171028.html

入場料:一般¥3,000・学生¥2,000(当日各¥500増)全席自由
会場:青山音楽記念館バロックザール
《演奏曲目》
◆ドビュッシー/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
◆フォーレ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 Op.108
◆プロコフィエフ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 Op.80

《チケット販売》
◎青山音楽記念館 075-393-0011
◎チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード 330-368)
※未就学児入館不可

◆井阪 美恵 Mie Isaka ヴァイオリン
 桐朋女子高校音楽科卒業。在学中、桐朋学園オーケストラのフォアシュピーラーや首席ヴィオラ奏者を務める。桐朋学園大学在学中に渡仏し、2010年パリ国立地方音楽院最高課程を修了。同年よりピエール・アモイヤル氏のもとで研鑽を積み、2011年にはアモイヤル氏とブラームスの弦楽六重奏を共演。2012年スイス・ローザンヌ高等音楽院学士課程ヴァイオリン科を満場一致の最高点を得て首席で卒業。同音楽院よりにエクセレント・リサイタル賞を授与される。
 その後、国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学で学び、2016年に同大学修士課程を満場一致の最優秀で修了。在学中はモーツァルテウム管弦楽団のエキストラとしても活動。2008年パリ・ヴァトロ=ランパルコンクールにて第1位及び審査員特別賞を受賞。第21回ブラームス国際音楽コンクール(オーストリア)室内楽部門にて、ヴァイオリンとピアノのデュオとして唯一セミファイナリストに選ばれる。2017年秋篠音楽堂室内楽フェスタ賞受賞。
 これまでにヴァイオリンを田中千香士、石井志都子、フレデリック・ラロック、ジェラール・プーレ、ピエール・アモイヤルの各氏に、室内楽をヴァンサン・コック、パトリック・ジュネ、レオナルド・ロチェックの各氏に師事。2016年より拠点を日本に移し、いずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとして『ウィーン・ムジークフェスト2017 Vol.3』に出演するなど、オーケストラ、室内楽、ソロなど、年間60回を超えるコンサートに出演中。ウェブサイト:http://www.mieisaka.com/

◆南部 由貴 Yuki Nanbu ピアノ
 桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科を経て渡欧。ウィーン国立音楽大学ピアノ室内楽科を最優秀の成績で、同大学院修士課程を審査員満場一致の最優秀で修了。第5回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位、併せてルーマニア政府観光局賞を受賞。第8回トレビーゾ国際音楽コンクール室内楽部門、現代音楽部門において第1位。第1回ベルリン。ライジングスターズグランプリ国際音楽コンクール室内楽部門にて奨励賞を受賞。
 桐朋女子高等学校音楽科卒業演奏会、関西桐朋会新人演奏会、読売新人演奏会、ベートーヴェンハウス(ハイリゲンシュタットの遺書の家)でのコンサート”ベートーヴェンの午後Ein Nachmi ttag mi t Beethoven″ 、シューベルトの生家でのウィーン若手演奏家コンサートシリーズ”Junge Talente”、在パリ日本文化会館での”作曲家・伊福部昭オマージュコンサートなど、数多くの演奏会に出演。これまでにポーランド国立クラクフ室内楽管弦楽団、鹿児島モーツァルト室内オーケストラと共演するなど、ソリスト、アンサンブルピアニストとして演奏活動を行っている。
 これまでにピアノを片野田郁子、兼松雅子、吉村真代、アヴェディス・クユムジャン各氏に、室内楽をアヴェディス・クユムジャン、藤井一興、原田敬子、テレザ・レオポルト、ゴッドフリート・ポコルニー、シュテファン・メンデル各氏に、歌曲伴奏法を木村俊光、ダヴィッド・ルッツ各氏に師事。現在京都在住。ウェブサイト:http://www.yuki-nambu.com