2017-10-09 井阪美恵×南部由貴デュオ・リサイタル インタビュー 4/4

  • 視覚的要素の種類

 井阪さんはフォーレのソナタの説明をするとき、フォーレにはドビュッシーのような視覚的な要素はないと言いました。ドビュッシーにある視覚的な要素とはどんなものなのでしょうか。

井阪「ドビュッシーは視覚的な音楽だと思います。音を聴いていると、何かしらの映像が浮かんできます。例えばモーツァルトとかは、オペラのシーンを思い浮かべることを除けば、目に見えるものの音という感じがしないんです。ブラームスも視覚的要素よりも、見えない心の音がします。でも、ドビュッシーはもちろん心の音がするところもあるんですけれど、それよりは目で見たものの音が聞こえる感じがします。

 例えば光の粒とか、葉っぱに水が当たるところとか。近いところに焦点を合わせて、ある一部分を切り取って撮っている感じ。肉眼で見るより細かったりとか、ちょっとデフォルメされてたりとか、ちょっと加工されてる感じがします。実際に見えてるものの一部の、一番綺麗なところをさらに美化した感じは、プロのカメラマンさんがやっているインスタグラムみたいでしょ?

 プロコフィエフも視覚的要素がたくさんあるんですけれど、ドビュッシーとは見えるものの種類が違うと思うんです。よりリアルな、兵隊の足音みたいな場面だったりとか、劇伴に近いと思います。実際にプロコフィエフは、ソビエト映画の音楽も書いていますし、ストーリー性であったり、人の動きとか物の動きとか音とかが、そのまま聞こえる感じがします。それこそ『映像の世紀』に近いなと思って。白黒の映像が浮かぶところがたくさんあります。

 その点、フォーレは音自体の主張が強くて、何かが浮かぶという感じはあんまりしないです。そういう意味ではモーツァルトなんかに近いと思います。3曲ともそれぞれ全然違うんです」

 2人が住んでいたヨーロッパでは、近所の人たちや観光客がふらっとコンサートに聴きに行くという光景が日常的にありました。演奏者も曲目も知らないようなコンサートでも、ハイキングに行くぐらいの気軽さでお客様が集まってくるそうです。今回のリサイタルは、クラシック愛好者が好むようなプログラムになっていますが、ヨーロッパのように気軽にふらっと来てもらってもいいと言います。

井阪「気軽で親しみやすい、ハッピーな感じのコンサートの方が人気だと思うんですけれど、映画でもハッピーエンドの作品があれば、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のような救いがない作品もあるように、音楽にも、えぐられるような、命を削るような音楽があります。そういう音楽に出会ったことのないな、という方にもぜひ聴きに来ていただきたいです。クラシック音楽にこういう面もあるんだな、というのをもっと伝えていきたいです。特にプロコフィエフは、ぐさっと刺さると思います。弾いていても刺さるので。

 ショスタコーヴィチの交響曲もそうでした。オーケストラで第11番を弾いたとき、弾きながら刺さっていました。いっぱい撃たれたみたいな感じになったけれど、そういう衝撃とか痛みみたいなものが音楽にはあります」

 いつの頃からか「音楽は楽しいもの」というイメージだけが先行して語られるようになってきた気がしますが、もちろん音楽は楽しいだけではありません。涙がでるほど悲しい音楽もあれば、心が沈んでしまうほど辛い音楽もある。大切に思っている大きなステージであるほど、音楽家は魂をさらけ出して音楽と真摯に対峙し、その全てを表現しようとします。

井阪「プロコフィエフの1番を気軽に弾いている人は見たことないですね。そういう気持ちでは弾けないので。その曲を選んだ時点で、みんな覚悟は決めていると思います。そういう音楽があるよっていうのを知ってほしい。ふらっと来た人にも『思ってたのと違ったけど、すごく刺さった』って思って帰ってもらいたいです」 <了>

(公財)青山財団助成公演 井阪美恵×南部由貴 デュオリサイタル
日時:2017年 10月28日(土)17:00開演(16:30開場)
http://barocksaal.com/concert_schedule/concert20171028.html

入場料:一般¥3,000・学生¥2,000(当日各¥500増)全席自由
会場:青山音楽記念館バロックザール
《演奏曲目》
◆ドビュッシー/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
◆フォーレ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 Op.108
◆プロコフィエフ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 Op.80

《チケット販売》
◎青山音楽記念館 075-393-0011
◎チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード 330-368)
※未就学児入館不可

◆井阪 美恵 Mie Isaka ヴァイオリン
 桐朋女子高校音楽科卒業。在学中、桐朋学園オーケストラのフォアシュピーラーや首席ヴィオラ奏者を務める。桐朋学園大学在学中に渡仏し、2010年パリ国立地方音楽院最高課程を修了。同年よりピエール・アモイヤル氏のもとで研鑽を積み、2011年にはアモイヤル氏とブラームスの弦楽六重奏を共演。2012年スイス・ローザンヌ高等音楽院学士課程ヴァイオリン科を満場一致の最高点を得て首席で卒業。同音楽院よりにエクセレント・リサイタル賞を授与される。
 その後、国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学で学び、2016年に同大学修士課程を満場一致の最優秀で修了。在学中はモーツァルテウム管弦楽団のエキストラとしても活動。2008年パリ・ヴァトロ=ランパルコンクールにて第1位及び審査員特別賞を受賞。第21回ブラームス国際音楽コンクール(オーストリア)室内楽部門にて、ヴァイオリンとピアノのデュオとして唯一セミファイナリストに選ばれる。2017年秋篠音楽堂室内楽フェスタ賞受賞。
 これまでにヴァイオリンを田中千香士、石井志都子、フレデリック・ラロック、ジェラール・プーレ、ピエール・アモイヤルの各氏に、室内楽をヴァンサン・コック、パトリック・ジュネ、レオナルド・ロチェックの各氏に師事。2016年より拠点を日本に移し、いずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとして『ウィーン・ムジークフェスト2017 Vol.3』に出演するなど、オーケストラ、室内楽、ソロなど、年間60回を超えるコンサートに出演中。ウェブサイト:http://www.mieisaka.com/

◆南部 由貴 Yuki Nanbu ピアノ
 桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科を経て渡欧。ウィーン国立音楽大学ピアノ室内楽科を最優秀の成績で、同大学院修士課程を審査員満場一致の最優秀で修了。第5回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位、併せてルーマニア政府観光局賞を受賞。第8回トレビーゾ国際音楽コンクール室内楽部門、現代音楽部門において第1位。第1回ベルリン。ライジングスターズグランプリ国際音楽コンクール室内楽部門にて奨励賞を受賞。
 桐朋女子高等学校音楽科卒業演奏会、関西桐朋会新人演奏会、読売新人演奏会、ベートーヴェンハウス(ハイリゲンシュタットの遺書の家)でのコンサート”ベートーヴェンの午後Ein Nachmi ttag mi t Beethoven″ 、シューベルトの生家でのウィーン若手演奏家コンサートシリーズ”Junge Talente”、在パリ日本文化会館での”作曲家・伊福部昭オマージュコンサートなど、数多くの演奏会に出演。これまでにポーランド国立クラクフ室内楽管弦楽団、鹿児島モーツァルト室内オーケストラと共演するなど、ソリスト、アンサンブルピアニストとして演奏活動を行っている。
 これまでにピアノを片野田郁子、兼松雅子、吉村真代、アヴェディス・クユムジャン各氏に、室内楽をアヴェディス・クユムジャン、藤井一興、原田敬子、テレザ・レオポルト、ゴッドフリート・ポコルニー、シュテファン・メンデル各氏に、歌曲伴奏法を木村俊光、ダヴィッド・ルッツ各氏に師事。現在京都在住。ウェブサイト:http://www.yuki-nambu.com

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2017-10-09 井阪美恵×南部由貴デュオ・リサイタル インタビュー 3/4

  • フォーレのソナタ第2番とその時代

 リサイタルのプログラムを考えていたとき、プロコフィエフの次に決まったのがドビュッシーのソナタでした。もう1曲を何にするか。100年のくくりを形にするという思いにふさわしい曲を色々と考えた結果、たどり着いたのがフォーレの第2番のソナタでした。

井阪「リサイタルの案内をしたヴァイオリン奏者みんなから、『え、2番を弾くの?!』と言われたぐらい、めったに演奏されない曲です。私もコンサートをたくさん聴きに行っていますけれど、生では2回ぐらいしか聴いたことがないです。ちょっと宇宙的な曲というか、明らかにフォーレだという部分もいっぱいあるけれど、でもフォーレのイメージからはかけ離れている曲です」

 フォーレのヴァイオリン・ソナタは2曲あり、第1番(作品13)はフォーレが30歳の1876年に、第2番(作品108番)は晩年の1917年に作られています。100年のくくりを形にするためには、人気のある第1番ではなく、第2番を選ぶ必要がありました。フォーレの曲は頻繁に転調することが特徴で、それは2つのヴァイオリン・ソナタにも現れてますが、転調の仕方に時代の変化が反映されているのではないか、と井阪さんは考えています。

井阪「もちろん第1番もいっぱい転調するんですけれど、転調する速度が第2番に比べると倍以上遅いんです。そのスピード感がすごく19世紀という感じがします。でも第2番になると『今これは何調?』って思ってる間に次に行って、またわからないうちに次に行くので、自分が今どこにいるのか把握するのにまず時間かかります。この曲は転調しすぎて無調に近くなっているんです。19世紀と20世紀では物事が進むスピードが全然違うから、そのスピード感が出ていると思います。

 戦争の話に戻るんですけど、第一次世界大戦で初めて化学兵器が使われたり、それまでの戦争にはなかった飛行機が登場したりした。だから19世紀までにやっていた物事とは、20世紀はテンポもスケールも全部が全然違う。それは音楽にも自然に出ていると思います。でも、よーく考えたら解ける転調なんです。全部、前から繋がっている音があって変わっていくから、よくよく見たらすごく古典的な転調で、絶対に説明はつくんです。だけどそれがあまりのスピードなんで、認識できないまま変わってしまう」

 調性を認識できないぐらいに転調を繰り返すフォーレの第2ソナタは、ヴァイオリニストだけでなく、和音を司るピアニストにとっても、大変な曲だと言います。

南部「ピアノはめっちゃハードです。体力的にも精神的にも技術的にも。フォーレを弾く精神状態に持っていくのがすごく大変。ドビュッシーは割とすんなり弾けるし、プロコフィエフもまあ手が動けば弾けるんですけど、フォーレは音色作りとかフレーズ作りがすごく難しくて。ただ音符を弾くだけで音が鳴る曲じゃない。耳と頭と目と手が、一緒にそのままのスピードで行くようになるのに4ヶ月ぐらいかかりました」

井阪「第2番のソナタはプロコフィエフとは全然違います。プロコフィエフの場合は、ここはマーチとかわかりやすい描写があるけど、フォーレにはそれは全然ない。ドビュッシーみたいな視覚的な要素もない。何かのメッセージ性があるわけではないし、誰かの死を悼んで書いたとかそういう曲でもないし、そういう意味では純粋に絶対音楽として書いています。第1番に比べたら、転調の早さもそうだけどリズムもすごく早く動くし、同じテンポの中に入っている情報量が多い。スピード感とか現代的という意味ではすごく20世紀的な曲だと思います」 <パート4「視覚的要素の種類」につづく

(公財)青山財団助成公演 井阪美恵×南部由貴 デュオリサイタル
日時:2017年 10月28日(土)17:00開演(16:30開場)
http://barocksaal.com/concert_schedule/concert20171028.html

入場料:一般¥3,000・学生¥2,000(当日各¥500増)全席自由
会場:青山音楽記念館バロックザール
《演奏曲目》
◆ドビュッシー/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
◆フォーレ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 Op.108
◆プロコフィエフ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 Op.80

《チケット販売》
◎青山音楽記念館 075-393-0011
◎チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード 330-368)
※未就学児入館不可

◆井阪 美恵 Mie Isaka ヴァイオリン
 桐朋女子高校音楽科卒業。在学中、桐朋学園オーケストラのフォアシュピーラーや首席ヴィオラ奏者を務める。桐朋学園大学在学中に渡仏し、2010年パリ国立地方音楽院最高課程を修了。同年よりピエール・アモイヤル氏のもとで研鑽を積み、2011年にはアモイヤル氏とブラームスの弦楽六重奏を共演。2012年スイス・ローザンヌ高等音楽院学士課程ヴァイオリン科を満場一致の最高点を得て首席で卒業。同音楽院よりにエクセレント・リサイタル賞を授与される。
 その後、国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学で学び、2016年に同大学修士課程を満場一致の最優秀で修了。在学中はモーツァルテウム管弦楽団のエキストラとしても活動。2008年パリ・ヴァトロ=ランパルコンクールにて第1位及び審査員特別賞を受賞。第21回ブラームス国際音楽コンクール(オーストリア)室内楽部門にて、ヴァイオリンとピアノのデュオとして唯一セミファイナリストに選ばれる。2017年秋篠音楽堂室内楽フェスタ賞受賞。
 これまでにヴァイオリンを田中千香士、石井志都子、フレデリック・ラロック、ジェラール・プーレ、ピエール・アモイヤルの各氏に、室内楽をヴァンサン・コック、パトリック・ジュネ、レオナルド・ロチェックの各氏に師事。2016年より拠点を日本に移し、いずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとして『ウィーン・ムジークフェスト2017 Vol.3』に出演するなど、オーケストラ、室内楽、ソロなど、年間60回を超えるコンサートに出演中。ウェブサイト:http://www.mieisaka.com/

◆南部 由貴 Yuki Nanbu ピアノ
 桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科を経て渡欧。ウィーン国立音楽大学ピアノ室内楽科を最優秀の成績で、同大学院修士課程を審査員満場一致の最優秀で修了。第5回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位、併せてルーマニア政府観光局賞を受賞。第8回トレビーゾ国際音楽コンクール室内楽部門、現代音楽部門において第1位。第1回ベルリン。ライジングスターズグランプリ国際音楽コンクール室内楽部門にて奨励賞を受賞。
 桐朋女子高等学校音楽科卒業演奏会、関西桐朋会新人演奏会、読売新人演奏会、ベートーヴェンハウス(ハイリゲンシュタットの遺書の家)でのコンサート”ベートーヴェンの午後Ein Nachmi ttag mi t Beethoven″ 、シューベルトの生家でのウィーン若手演奏家コンサートシリーズ”Junge Talente”、在パリ日本文化会館での”作曲家・伊福部昭オマージュコンサートなど、数多くの演奏会に出演。これまでにポーランド国立クラクフ室内楽管弦楽団、鹿児島モーツァルト室内オーケストラと共演するなど、ソリスト、アンサンブルピアニストとして演奏活動を行っている。
 これまでにピアノを片野田郁子、兼松雅子、吉村真代、アヴェディス・クユムジャン各氏に、室内楽をアヴェディス・クユムジャン、藤井一興、原田敬子、テレザ・レオポルト、ゴッドフリート・ポコルニー、シュテファン・メンデル各氏に、歌曲伴奏法を木村俊光、ダヴィッド・ルッツ各氏に師事。現在京都在住。ウェブサイト:http://www.yuki-nambu.com

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2017-10-09 井阪美恵×南部由貴デュオ・リサイタル インタビュー 2/4

  • 1917年と1946年

 今回のリサイタルは、プロコフィエフの第1番のソナタを入れることが最初に決まりました。高度な技術を要求される曲だからこそ、今この年齢で弾きたいという理由もありましたが、この曲が作られた時代や国も、井阪さんにとって大切な意味を持っていました。それは、あるドキュメンタリー番組を見たことが、ひとつのきっかけになっています。

井阪「2年ぐらい前にたまたま、NHKで放送していた『新・映像の世紀』を見たんです。以前に放送された時にはなかった、新しく出てきた映像とかも使って、20世紀の100年間の歴史を見直すという番組でした。その辺りの歴史って学校の授業だと結構すっとばすじゃないですか。ささっとは習うし条約の名前とかは覚えるけれど、どういう経緯で戦争が起きて、どういう処理がされて、それが今の戦争にどう繋がってしまったかとか、学校でちゃんとやってなくって。例えば今の中東の問題も、第一次世界大戦でオスマン帝国がどうなったとか、それがどういう風に分割されたのかとか、番組を見て、そうだったんだってびっくりすることが多かったんです。

 実際、私が帰国する1年ぐらい前のザルツブルクが、シリアから来ている難民がピークの時期だったんです。みんなドイツに行きたいから、ザルツブルクを通るんです。ある日、私が講習会からザルツブルクに戻ってきたら、駅がすごいことになっていました。というのも、ドイツがいきなり国境を閉めたから、難民が溢れかえっていたんですよ。しかも国境が閉まるっていう噂も流れていたから、余計にみんな急いでやって来ていて、すごいことになっていた。駅の前には赤十字が医療テントを作っていて、地下の駐車場にはたくさんのベッドが入れられて全部難民キャンプになっていた。もちろんニュースではずっとシリアの問題とかを見ていたけれど、初めてすごく間近に見てびっくりしたし、現実的にこんなことになってるんだって思いました。

 それでも、実際に見ていると意外とみんな普通で、スマホを持ってたりするんですよ。みんなのやり取りとか表情とかを見ていたら、そこまで切羽詰まってるわけでもない。シリアは本当に危険な状態だけど、ザルツブルクにいればとりあえずは安全だし、何とかなるだろうっていう感じはあるから、そこにいる難民に悲壮感とかはあまりないんです」

 自分の中から抜け落ちていた100年間の歴史をドキュメンタリー番組で知り、番組やニュースでしか知らなかった情報を、現実に起こっているリアルな姿として実感したことで、井阪さんはこれまでの100年や、次の100年について考えるようになったといいます。

井阪「私は戦争とか紛争とかとは無縁に生きてきたけれど、これからの100年に何を選んでいくのか、何が正しいとかいう正解はないとしても、ある程度は自分でも判断できた方がいいし、抜け落ちている近代の歴史は絶対に振り返ったほうがいいと思いました。本当に知らないことがたくさんあったので。もちろん日本や他の国の文化を知る上で、何百年という昔の歴史を知ることも大事ですけれど、この身近な100年って現在の私たちにもすごく影響すると思います」

 井阪さんが20世紀の歴史について考えるようになったタイミングは、プロコフィエフのソナタを軸とした今回のリサイタルのプログラム構成にも大きく影響を与えています。

井阪「ドキュメンタリー番組を見たタイミングとかとも重なって、そういうことを考えていた時だったので、プロコフィエフのソナタは私の中ですごくタイムリーだったんです。第1番は第二次世界大戦を挟んだ1938年から46年の間に作られていて、しかもスターリン時代のソビエトで書かれている。やっぱりすごく独特な作品だと思います。

 一緒に演奏しようと思って選んだドビュッシーとフォーレのソナタが1917年の作品で、今からちょうど100年前、第一次世界大戦の頃の作品だったので、自分の中でこの組み合わせがしっくりきたんです。音楽だから形があるわけじゃないけど、この組み合わせにすることで、この100年間というくくりを形にできるんじゃないかって。とても思い入れが強いプログラムです」 <パート3「フォーレのソナタ第2番とその時代」につづく

(公財)青山財団助成公演 井阪美恵×南部由貴 デュオリサイタル
日時:2017年 10月28日(土)17:00開演(16:30開場)
http://barocksaal.com/concert_schedule/concert20171028.html

入場料:一般¥3,000・学生¥2,000(当日各¥500増)全席自由
会場:青山音楽記念館バロックザール
《演奏曲目》
◆ドビュッシー/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
◆フォーレ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 Op.108
◆プロコフィエフ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 Op.80

《チケット販売》
◎青山音楽記念館 075-393-0011
◎チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード 330-368)
※未就学児入館不可

◆井阪 美恵 Mie Isaka ヴァイオリン
 桐朋女子高校音楽科卒業。在学中、桐朋学園オーケストラのフォアシュピーラーや首席ヴィオラ奏者を務める。桐朋学園大学在学中に渡仏し、2010年パリ国立地方音楽院最高課程を修了。同年よりピエール・アモイヤル氏のもとで研鑽を積み、2011年にはアモイヤル氏とブラームスの弦楽六重奏を共演。2012年スイス・ローザンヌ高等音楽院学士課程ヴァイオリン科を満場一致の最高点を得て首席で卒業。同音楽院よりにエクセレント・リサイタル賞を授与される。
 その後、国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学で学び、2016年に同大学修士課程を満場一致の最優秀で修了。在学中はモーツァルテウム管弦楽団のエキストラとしても活動。2008年パリ・ヴァトロ=ランパルコンクールにて第1位及び審査員特別賞を受賞。第21回ブラームス国際音楽コンクール(オーストリア)室内楽部門にて、ヴァイオリンとピアノのデュオとして唯一セミファイナリストに選ばれる。2017年秋篠音楽堂室内楽フェスタ賞受賞。
 これまでにヴァイオリンを田中千香士、石井志都子、フレデリック・ラロック、ジェラール・プーレ、ピエール・アモイヤルの各氏に、室内楽をヴァンサン・コック、パトリック・ジュネ、レオナルド・ロチェックの各氏に師事。2016年より拠点を日本に移し、いずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとして『ウィーン・ムジークフェスト2017 Vol.3』に出演するなど、オーケストラ、室内楽、ソロなど、年間60回を超えるコンサートに出演中。ウェブサイト:http://www.mieisaka.com/

◆南部 由貴 Yuki Nanbu ピアノ
 桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科を経て渡欧。ウィーン国立音楽大学ピアノ室内楽科を最優秀の成績で、同大学院修士課程を審査員満場一致の最優秀で修了。第5回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位、併せてルーマニア政府観光局賞を受賞。第8回トレビーゾ国際音楽コンクール室内楽部門、現代音楽部門において第1位。第1回ベルリン。ライジングスターズグランプリ国際音楽コンクール室内楽部門にて奨励賞を受賞。
 桐朋女子高等学校音楽科卒業演奏会、関西桐朋会新人演奏会、読売新人演奏会、ベートーヴェンハウス(ハイリゲンシュタットの遺書の家)でのコンサート”ベートーヴェンの午後Ein Nachmi ttag mi t Beethoven″ 、シューベルトの生家でのウィーン若手演奏家コンサートシリーズ”Junge Talente”、在パリ日本文化会館での”作曲家・伊福部昭オマージュコンサートなど、数多くの演奏会に出演。これまでにポーランド国立クラクフ室内楽管弦楽団、鹿児島モーツァルト室内オーケストラと共演するなど、ソリスト、アンサンブルピアニストとして演奏活動を行っている。
 これまでにピアノを片野田郁子、兼松雅子、吉村真代、アヴェディス・クユムジャン各氏に、室内楽をアヴェディス・クユムジャン、藤井一興、原田敬子、テレザ・レオポルト、ゴッドフリート・ポコルニー、シュテファン・メンデル各氏に、歌曲伴奏法を木村俊光、ダヴィッド・ルッツ各氏に師事。現在京都在住。ウェブサイト:http://www.yuki-nambu.com

 

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2017-10-09 井阪美恵×南部由貴デュオ・リサイタル インタビュー 1/4

  • 選曲について

 井阪美恵さんは京都出身、南部由貴さんは鹿児島出身、それぞれ習っていた先生の勧めもあり、高校は東京の桐朋女子高等学校音楽科に進学されます。そして井阪さんは桐朋学園大学在学中にパリに渡り、パリ国立地方音楽院、ローザンヌ高等音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学で研鑽を積まれました。南部さんは桐朋学園大学を卒業後、ウィーン国立音楽大学に留学されています。

南部「井阪さんとは高校の時に出会いました。高校の時は私の先生がすごく厳しくて、まずソロをちゃんとやりなさいということで『室内楽禁止令』が出ていたから、一緒に演奏する機会はなかったんです。大学で一度だけ一緒にカルテットをやって、それで美恵ちゃんが先に留学して、私は大学を卒業してからウィーンに行きました。

 向こうに行ってから、彼女が論文につける音源を録音するというので、私がお手伝いしたことがあります。その時に、日本に帰ってからも一緒にできたらいいねっていう話をしていました」

※井阪さんと南部さんが録音した、グリーグのヴァイオリンソナタ第3番の第2楽章は、井阪さんのウェブサイトで聴くことができます
https://www.mieisaka.com/music

 井阪さんは2016年に帰国。今年4月に南部さんが帰国したタイミングで、日本での共演をスタートさせます。初めての本番は、今年5月に開催された「秋篠音楽堂 室内楽フェスタ」でした。そこでドビュッシーのソナタを演奏した2人は、出場者の中から優秀な1組に贈られる「フェスタ賞」を受賞、デュオ・リサイタルへの弾みをつけました。

南部「昨年、彼女が私より1年早く日本に帰ってきて、1年遅れて私が今年帰ってきて、2人とも京都に住んでるから、ちゃんとした大きい本番をバロックザールでやろうって言ってたんです」

井阪「最初に決めた曲は、プロコフィエフだったんです。プロコフィエフの第1番をやろうって決めてから、あとのプログラムを決めたんですよ。第1番のソナタは、アモイヤル先生の録音も聴いていたし、アモイヤルクラスにいたときには常に公開レッスン形式だったので、韓国人の友達が弾いていたり、カザフスタン人が弾いていたり、色んな国の人の演奏を間近に聴いていたんです。

 例えばフランスものとかだったら、やっぱりフランス人が弾いたら一番うまいなと思うけど、プロコフィエフは誰が弾いてもしっくりくるというか、1946年に完成した曲だからまだそんなに経ってないし、感覚が現代に近い。だから、その土地に根付いた文化云々というよりは、今の人の感覚で弾ける。それを今、この年齢で弾きたいというのもあった。

 こういうアクロバティックなレパートリーって、今やっておかないとタイミングを逃したら一生弾けない気がして。30歳って精神的にも体力的にも、ピークの時期の始めぐらいじゃないですか。20代だとまだ若い。多分40~50代ぐらいが一番脂が乗ってる時期だとおもうんですけれど、そこに向かっての歳に、ちょっと頑張ってこんなプログラムにしました」 <パート2「1917年と1946年」につづく

(公財)青山財団助成公演 井阪美恵×南部由貴 デュオリサイタル
日時:2017年 10月28日(土)17:00開演(16:30開場)
http://barocksaal.com/concert_schedule/concert20171028.html

入場料:一般¥3,000・学生¥2,000(当日各¥500増)全席自由
会場:青山音楽記念館バロックザール
《演奏曲目》
◆ドビュッシー/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
◆フォーレ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 Op.108
◆プロコフィエフ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 Op.80

《チケット販売》
◎青山音楽記念館 075-393-0011
◎チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード 330-368)
※未就学児入館不可

◆井阪 美恵 Mie Isaka ヴァイオリン
 桐朋女子高校音楽科卒業。在学中、桐朋学園オーケストラのフォアシュピーラーや首席ヴィオラ奏者を務める。桐朋学園大学在学中に渡仏し、2010年パリ国立地方音楽院最高課程を修了。同年よりピエール・アモイヤル氏のもとで研鑽を積み、2011年にはアモイヤル氏とブラームスの弦楽六重奏を共演。2012年スイス・ローザンヌ高等音楽院学士課程ヴァイオリン科を満場一致の最高点を得て首席で卒業。同音楽院よりにエクセレント・リサイタル賞を授与される。
 その後、国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学で学び、2016年に同大学修士課程を満場一致の最優秀で修了。在学中はモーツァルテウム管弦楽団のエキストラとしても活動。2008年パリ・ヴァトロ=ランパルコンクールにて第1位及び審査員特別賞を受賞。第21回ブラームス国際音楽コンクール(オーストリア)室内楽部門にて、ヴァイオリンとピアノのデュオとして唯一セミファイナリストに選ばれる。2017年秋篠音楽堂室内楽フェスタ賞受賞。
 これまでにヴァイオリンを田中千香士、石井志都子、フレデリック・ラロック、ジェラール・プーレ、ピエール・アモイヤルの各氏に、室内楽をヴァンサン・コック、パトリック・ジュネ、レオナルド・ロチェックの各氏に師事。2016年より拠点を日本に移し、いずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとして『ウィーン・ムジークフェスト2017 Vol.3』に出演するなど、オーケストラ、室内楽、ソロなど、年間60回を超えるコンサートに出演中。ウェブサイト:http://www.mieisaka.com/

◆南部 由貴 Yuki Nanbu ピアノ
 桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科を経て渡欧。ウィーン国立音楽大学ピアノ室内楽科を最優秀の成績で、同大学院修士課程を審査員満場一致の最優秀で修了。第5回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位、併せてルーマニア政府観光局賞を受賞。第8回トレビーゾ国際音楽コンクール室内楽部門、現代音楽部門において第1位。第1回ベルリン。ライジングスターズグランプリ国際音楽コンクール室内楽部門にて奨励賞を受賞。
 桐朋女子高等学校音楽科卒業演奏会、関西桐朋会新人演奏会、読売新人演奏会、ベートーヴェンハウス(ハイリゲンシュタットの遺書の家)でのコンサート”ベートーヴェンの午後Ein Nachmi ttag mi t Beethoven″ 、シューベルトの生家でのウィーン若手演奏家コンサートシリーズ”Junge Talente”、在パリ日本文化会館での”作曲家・伊福部昭オマージュコンサートなど、数多くの演奏会に出演。これまでにポーランド国立クラクフ室内楽管弦楽団、鹿児島モーツァルト室内オーケストラと共演するなど、ソリスト、アンサンブルピアニストとして演奏活動を行っている。
 これまでにピアノを片野田郁子、兼松雅子、吉村真代、アヴェディス・クユムジャン各氏に、室内楽をアヴェディス・クユムジャン、藤井一興、原田敬子、テレザ・レオポルト、ゴッドフリート・ポコルニー、シュテファン・メンデル各氏に、歌曲伴奏法を木村俊光、ダヴィッド・ルッツ各氏に師事。現在京都在住。ウェブサイト:http://www.yuki-nambu.com

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2015-02-15 朴守賢 インタビュー 未公開2/2

  • 「暁闇の宴」の難易度

――課題曲Vは難曲というイメージがありますが、朴さんの曲もそうですか?

「今回の課題曲に関して言うと、技術的にも普通に難しいですよ(笑)。まあいわゆる現代曲の部類に入るんですけど、マーチに慣れ親しんでたり、例えば映画音楽ライクな曲とかに慣れ親しんでる方からすると『なんじゃこりゃ?』ってなると思う。でも多分そういう人たちは、毎年の課題曲Vに対してそう思ってるはずなんですよ。『課題曲Vはよくわからん』と。そういう意味では、僕もそこに数えられるような作品ではあると思います。でも、実はそんなに難しくないんですよね。よくよく見れば、整理はしやすいと僕は思ってるんです。そんなに奇抜なこともしてないし、例えば特殊奏法が満載とかそういうわけじゃないし、よくわからない打楽器を使っているわけでもない」

――「これは高校生に理解できるのかな?」と思って書いたりするんですか?

「課題曲だということを半分は意識したんで、そういうイメージもしたのはしました。多少ですけど。でも、それに引っ張られはしなかったです。引っ張られると作品自体が萎縮してしまうので」

――なるほど

「3年前、クラリネット協会の作品コンクールに出した曲があるんです(クラリネット・ソロのための「Yの肖像」。この曲で第3位入賞)。僕はクラリネット吹きだから結構自信があって、解説で豪語したんです。『自分がクラリネットをやっているからこそ、しばしば作曲家に見受けられる無理な運指とか変な跳躍とかがなく、楽器の機能性を存分に生かした曲です』と。なのですけど、公開審査だったので審査員の作曲家やクラリネット奏者が壇上で色々話しをしておられるのを聞いていると、むしろ奏者としては、今までにない高いハードルに出くわすと燃えると言われたんです。それを練習して練習してこなして、クラリネットというものの技術や曲がさらに上がっていくんだと。そう言われて、ああ!と思ったんです。それは僕の中で結構ガツンときたんですよ。それまであんまり思ったことがなかったので。今から思えば、僕はクラリネットをなまじ知っているがために、自分で安全な枠をくくってしまっていたと思うんですね。それは本当に、トンカチで殴られたような衝撃でした。やっぱりちゃんと音楽に取り組んでる人は、むしろ音楽のそういう発展を望むんだなと思って、それはすごく勉強になった」

――すごく貴重なお話ですね

「今回の課題曲も、学生とかを想像はしたけど、だからと言ってそこにアジャストさせるんじゃなくて、彼らがここならトライできるだろうという、頑張ったら飛び越えられるハードルを用意したつもりです」

――朴さんは以前から「今よりも半歩先を歩きたい」っていう話をされてましたもんね

「そうそう。でも今や日本の中高生は世界レベルですから、何でも吹けますからね。だから全然大丈夫だと思うんですけどね。ましてひと夏かけるわけですから」

――最近のコンクール事情には詳しくないのですが、課題曲Vを選ぶ団体は少ないんですか?

「まず、課題曲Vは中学校は選択できません。これは15禁なんで」

――15禁(笑)

「R-15指定なので(笑)。比較的、腕に自信のある学校が選ぶことが多いみたいですね。まあVに関しては、『毎年Vをやります』みたいな”Vファン”の楽団も多いです」

――そうした団体の充実した演奏を聴くことができれば、どれだけ取り上げられるかという数にはあまり関心がないですか?やっぱりたくさんやってほしいですか?

「いやいや、それはやっぱりやってほしいですよ。できるだけたくさんやっていただけると大変嬉しいです」

――来年はきっと、色んな「暁闇の宴」に会うために全国各地を飛び回ってることでしょうね (了)

朴 守賢(パク・スヒョン)

1980年2月、大阪生まれ。
大阪音楽大学音楽学部作曲学科作曲専攻出身。

吹奏楽、管弦楽、室内楽、民族楽器、合唱、歌曲、朗読音楽、等の作曲・編曲
TVドラマ、CM、映画、劇音楽等の劇伴音楽制作
クラリネット、リコーダー、雲南の横笛「巴烏」(Bawu)等の演奏
指揮、音楽指導
音楽を通した世界各地での芸術国際交流
等で活動中。

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